2月26日(日)の午後は、山形市のやまぎん県民ホールに出かけ、山形交響楽団による演奏会形式のオペラ、プッチーニ「ラ・ボエーム」を聴きました。ホールに入ると、ステージ上には正面奥と左手に合唱団のためのものと思われる階段状のひな壇が置かれ、中央部にオーケストラ、手前側が歌い手のための場所、という配置になっています。今回は演奏会形式ですので、オーケストラはピットに入りませんから、楽器の配置もよく見えます。指揮者を中心に、左から第1ヴァイオリン(8)、チェロ(5)、ヴィオラ(5)、第2ヴァイオリン(6)、左端にコントラバス(3)という対向配置。正面奥にピッコロ(1)、フルート(2)、オーボエ(2)、その奥にクラリネット(2)、ファゴット(2)と木管が並びます。背が高い楽器はバスクラリネットでしょうか。木管の左側にハープ、その後方にホルン(4)、その右、正面最奥部にトランペット(3)、トロンボーン(3)にバストロンボーン、右奥にティンパニ、その手前、右端にパーカッションが並びます。プッチーニがこの曲を作曲した年代を考えれば、いずれも現代楽器を使用するのは自然でしょう。
(開場直後のホールの様子)
「ボエーム」は、序曲などなしに、第1幕がいきなり始まります。簡易なイス2脚が置かれただけの空間ですが、詩人ロドルフォ、画家マルチェッロ、哲学者コルリーネ、音楽家ショナールの4人がボヘミアン生活を送っているアパートの屋根裏部屋での様子が描かれます。家主ブノアが家賃を取り立てに来てもうまいこと追い返してしまうあたりは、無軌道な生活でも若さの勢いが感じられるところ。少しのお金が入ったところからカフェ・モミュスへ繰り出すことにしますが、ロドルフォは原稿を完成させるために少しだけ遅れると部屋に残ります。そこへロウソクの火を借りにお針子ミミがやってきて、二人は出会うことになります。この二人の会話がアリアになっていて、これぞ名作の名場面!という感じです。ストーリーも音楽もテンポよく進み、あっという間に第2幕へ。
第2幕はカフェ・モミュス前の広場の場面ですが、ここも2脚のイスをうまく使い、おもちゃ売りのパルピニョールは舞台には登場せず、正面奥の合唱団アマデウス・コア50名が群衆や商人のざわざわした雰囲気を出し、子どもたちのはしゃぐ声は山形北高音楽科・音楽部の12名の生徒たちが担当。やっぱり声質が大人の合唱団とは違い、ぴったりあてはまります。ミミを含む5人の若者のところへ、政府高官アルチンドロの愛人となっているムゼッタがやってきますが、ムゼッタとマルチェッロはかつての恋人どうし。別れた恋人たちの意地を張り合いもまた名アリアとなっており、よりを戻した二人を含む若者たちが立ち去り、残された勘定書きを見たアルチンドロが目を回すというオチがつきます。ここまでは、どちらかといえば明るく幸せを感じさせる場面。
この後は、一転して暗く深刻で悲しい場面が続きます。第3幕、アンフェールの検問所の場面は、貧しさと病気と嫉妬がミミとロドルフォの二人に別れを決意させますし、酒場で働くムゼッタとマルチェッロも嫉妬でケンカ別れに。確かに「助けるには愛だけじゃ足りない」のです。
第4幕は再びアパートの屋根裏部屋の場面で、ロドルフォとマルチェッロの二人が失った恋の痛手にそれぞれ仕事が手につかない。そこへムゼッタがかけこみ、衰弱しきったミミを連れてきます。ここも、名アリアの連続です。ショナールの「外套の歌」は気骨ある男の歌ですし、ミミとロドルフォが初めて会った場面を回想するところなどは、同じ歌のはずなのに切ない。そしてミミが息を引き取っていることに気づき、ロドルフォだけがそれを知らないシーン。沈黙が訪れ、弦楽がほとばしる感情をぶつけるようにロドルフォの絶叫を先取りするところで、思わずうるっとしました。オーケストラ演奏による、音楽の力です。プッチーニのオーケストラ表現はすごい。ほんのひとふしで、感情の機微を表してしまいます。
今回の配役は;
というものでした。ヨーロッパの歌劇場で経験を積んだ阪哲朗さんの指揮は的確で、ロドルフォとミミやマルチェッロなど歌い手の皆さんも素晴らしい歌を聞かせてくれましたが、とりわけ「私がたった一人で町を歩いていると」と歌うムゼッタのワルツはコケットな魅力爆発でしたし、バスらしいコルリーネの「外套の歌」にはやはり心打たれました。もう一つ、弦の響きの切なさをはじめ、オーケストラの演奏に大満足でした。今回も合唱指導をしていただいた佐々木先生、渡辺先生の力もあり、CDやDVDなどの録音・録画とは異なる、生のオーケストラ演奏、合唱によるオペラは、やっぱりいいものです。
【追記】
プログラム冊子を眺めていたら、小松崎さんがピッコロを担当するため、フルートに昨年夏の山形弦楽四重奏団第84回定期演奏会でクロンマーのフルート四重奏曲を聴いた(*1)鈴木芽久さんが客演しているのを見つけました。他にもクラリネットやトランペット、パーカッションなど客演の皆さんの名前が載っていました。こんなふうに、山響を通じて演奏家の皆さんがつながりあっているのだなと感じました。
(*1): 山形弦楽四重奏団第84回定期演奏会でボッケリーニ、シューベルト、クロンマーを聴く〜「電網郊外散歩道」2022年7月
(開場直後のホールの様子)
「ボエーム」は、序曲などなしに、第1幕がいきなり始まります。簡易なイス2脚が置かれただけの空間ですが、詩人ロドルフォ、画家マルチェッロ、哲学者コルリーネ、音楽家ショナールの4人がボヘミアン生活を送っているアパートの屋根裏部屋での様子が描かれます。家主ブノアが家賃を取り立てに来てもうまいこと追い返してしまうあたりは、無軌道な生活でも若さの勢いが感じられるところ。少しのお金が入ったところからカフェ・モミュスへ繰り出すことにしますが、ロドルフォは原稿を完成させるために少しだけ遅れると部屋に残ります。そこへロウソクの火を借りにお針子ミミがやってきて、二人は出会うことになります。この二人の会話がアリアになっていて、これぞ名作の名場面!という感じです。ストーリーも音楽もテンポよく進み、あっという間に第2幕へ。
第2幕はカフェ・モミュス前の広場の場面ですが、ここも2脚のイスをうまく使い、おもちゃ売りのパルピニョールは舞台には登場せず、正面奥の合唱団アマデウス・コア50名が群衆や商人のざわざわした雰囲気を出し、子どもたちのはしゃぐ声は山形北高音楽科・音楽部の12名の生徒たちが担当。やっぱり声質が大人の合唱団とは違い、ぴったりあてはまります。ミミを含む5人の若者のところへ、政府高官アルチンドロの愛人となっているムゼッタがやってきますが、ムゼッタとマルチェッロはかつての恋人どうし。別れた恋人たちの意地を張り合いもまた名アリアとなっており、よりを戻した二人を含む若者たちが立ち去り、残された勘定書きを見たアルチンドロが目を回すというオチがつきます。ここまでは、どちらかといえば明るく幸せを感じさせる場面。
この後は、一転して暗く深刻で悲しい場面が続きます。第3幕、アンフェールの検問所の場面は、貧しさと病気と嫉妬がミミとロドルフォの二人に別れを決意させますし、酒場で働くムゼッタとマルチェッロも嫉妬でケンカ別れに。確かに「助けるには愛だけじゃ足りない」のです。
第4幕は再びアパートの屋根裏部屋の場面で、ロドルフォとマルチェッロの二人が失った恋の痛手にそれぞれ仕事が手につかない。そこへムゼッタがかけこみ、衰弱しきったミミを連れてきます。ここも、名アリアの連続です。ショナールの「外套の歌」は気骨ある男の歌ですし、ミミとロドルフォが初めて会った場面を回想するところなどは、同じ歌のはずなのに切ない。そしてミミが息を引き取っていることに気づき、ロドルフォだけがそれを知らないシーン。沈黙が訪れ、弦楽がほとばしる感情をぶつけるようにロドルフォの絶叫を先取りするところで、思わずうるっとしました。オーケストラ演奏による、音楽の力です。プッチーニのオーケストラ表現はすごい。ほんのひとふしで、感情の機微を表してしまいます。
今回の配役は;
吉田 珠代(ミミ)
山本 耕平(ロドルフォ)
高橋 維(ムゼッタ)
市川 宥一郎(マルチェッロ)
藪内 俊弥(ショナール)
加藤 宏隆(コッリーネ)
志村 文彦(ブノア/アルチンドロ)
合唱:アマデウス・コア、山形北高音楽科・音楽部
指揮:阪哲朗、演奏:山形交響楽団
というものでした。ヨーロッパの歌劇場で経験を積んだ阪哲朗さんの指揮は的確で、ロドルフォとミミやマルチェッロなど歌い手の皆さんも素晴らしい歌を聞かせてくれましたが、とりわけ「私がたった一人で町を歩いていると」と歌うムゼッタのワルツはコケットな魅力爆発でしたし、バスらしいコルリーネの「外套の歌」にはやはり心打たれました。もう一つ、弦の響きの切なさをはじめ、オーケストラの演奏に大満足でした。今回も合唱指導をしていただいた佐々木先生、渡辺先生の力もあり、CDやDVDなどの録音・録画とは異なる、生のオーケストラ演奏、合唱によるオペラは、やっぱりいいものです。
【追記】
プログラム冊子を眺めていたら、小松崎さんがピッコロを担当するため、フルートに昨年夏の山形弦楽四重奏団第84回定期演奏会でクロンマーのフルート四重奏曲を聴いた(*1)鈴木芽久さんが客演しているのを見つけました。他にもクラリネットやトランペット、パーカッションなど客演の皆さんの名前が載っていました。こんなふうに、山響を通じて演奏家の皆さんがつながりあっているのだなと感じました。
(*1): 山形弦楽四重奏団第84回定期演奏会でボッケリーニ、シューベルト、クロンマーを聴く〜「電網郊外散歩道」2022年7月
山形交響楽団のホームページを見たのですが、充実した演奏会が多くて、驚きました。特に、オペラが取り上げられているのが、すごいです。
記事を拝見させていただきましたが、今回の公演内容は、かなり充実していて、常任指揮者の阪哲朗さんの意気込み、見識もが伝わってくるようです。
オペラ観に行きたくなりました。
ところで山響の好調の秘密の一つに、シーズンのプログラムの組み方が魅力的だというのがあると思いますが、これには飯森さんの頃から事務局長をつとめている西濱専務理事の力も大きいと思っています。私は勝手に「西濱効果」と呼んでいますが、運営のスマートさとともに、音楽ファンそれぞれの各層に訴えるプログラミングの見事さは、クラシック音楽の世界をよく知っていて、しかも山響を良くしようと情熱を注いでいるからではないか。理想と現実の折り合いを付けて、一歩ずつ前に進むのが事務局の姿だと思いますが、山響の事務局の皆さん、明るいですね!
私も主人と3階席から聴いていました。この会場は音響が良いし、それに加えて空調も良いと気付きました。喉鼻が苦しくならない..
そしてこの度ミミの正式名が『ルチア』と知り嬉しくなりました。ルチアは私のミドルネームでもあるのです。
ところで、ジェインさん、ミドルネームがルチアとのこと、「光」ですね。たしかに、私たちの進む道が後に続く人にとっての光でありたいものです。