電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

滝口悠生『高架線』を読む

2018年02月03日 06時02分38秒 | 読書
2017年9月に講談社から刊行された単行本で、滝口悠生(ゆうしょう)著『高架線』を読みました。著者は1982年に東京都八丈町、要するに八丈島に生まれ、埼玉県入間市に育った35歳。高校卒業後にフリーターとして生活し、早稲田の2文で学んだ後に中退、輸入食品会社で社員として働く傍ら小説を書き、2016年に『死んでいない者』で芥川賞を受賞した主夫志向の作家(Wikipedia)とあります。

本作品は、西武池袋線の東長崎駅周辺を主な舞台として展開されます。「かたばみ荘」という古いアパートに住む新井田千一という青年の経歴やら事情やらが当人の言葉で語られた後に、片山三郎の縁で七見歩という青年による語りに変わり、その妻・七見奈緒子にバトンタッチして…という具合に、次々に語り手が変わっていきます。

新井田千一です。…

このあたりは、まるで E-mail の書き方みたいで、作品全体が、まるで誰かのメールソフトのデータをメールボックスごと開いて読んでいるような感覚があります。実は、メールボックスの役割を果たしているのが「かたばみ荘」で、転居に際しては次の住人を紹介するという大屋さんの流儀が人のつながりを生んでいます。

高架線から地上を見下ろした時に、下方に見える多くの人々の暮らし。その人々の縁が、いささか風変わりだけれど飄々と親愛感を持って描かれているようです。個人的には、片山三郎があやうく無銭飲食というところで説教してくれたうどん屋の親父さんのエピソードが、昭和の人情話風で良かった(^o^)/


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