電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

武部健一『道路の日本史』を読む

2022年06月09日 06時00分35秒 | -ノンフィクション
中公新書で、武部健一著『道路の日本史〜古代駅路から高速道路へ』を読みました。購入後、読み終えるまでにしばらく時間がかかりましたが、内容がたいへん興味深く、権力者の交代の様子を描く歴史にはない面白さがあります。抜書をしながら読みましたので、時間がかかったのにはそのせいもあるかと思います。

さて、個人的に興味深かった点をいくつかピックアップしてみると;

  • 並木の始め(p.32) 東大寺の僧・普照の奏上による。「まさに機内七道諸国駅路の両辺にあまねく果樹を植うるべきこと」天平宝宇3(759)年6月22日公布の太政官符。「道路は百姓(人民)が絶えず行き来しているから、樹があればその傍らで休息することができ、夏は厚さを避け、餓えれば果樹の実を採って食べることができる」(p.33, 普照の奏状より)
  • 7世紀後半、律令制国家の駅制の全国展開。古代の駅路は道幅12m、両側に溝を持つ直線路だった。これが平安時代に道幅9m、さらに6mに縮小された。
  • 駅路の使われ方。日本の古代駅路の場合は (1)有事の際の迅速な情報連絡、(2)軍隊の移動、(3)公用役人の移動、(4)都への貢納物の輸送 であり、民間人の旅行は眼中にない。この点は、古代ローマの道とは異なっている。
  • 現代の高速道路と古代駅路の驚くべき類似性(一致)、キーワードは計画性と直進性
  • 中世 崩壊する律令体制と道 乱世と軍事の道 蒙古襲来の一報は古代よりも遅い(時日が多くかかっている) 統一した道路システムを持たなかったため

などが挙げられます。



他に、近世の街道並木の別な側面として、周囲の田畑からの侵食を防止するのに有効な手段であるとか、山形県において大掛かりな道路工事を進めた明治の三島通庸のことや、日本の道路の劣悪さを批判するイザベラ・バードが三島が作った道路を高く評価したことなども興味深いものです。


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2 コメント

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知らなかった世界 (こに)
2022-06-10 08:31:56
いつも当たり前に使っている道路のこのような歴史があったとは、でした。
30年毎くらいに改訂、補足版を出してもらいたいくらいです。

https://blog.goo.ne.jp/mikawinny/e/ed856de7d38dcd8eebb25f198d8597aa
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こに さん、 (narkejp)
2022-06-10 20:25:33
コメントありがとうございます。サクランボ収穫作業ができない雨の日に、ようやく読み終えました。文字どおり「晴耕雨読、年中音楽」です。道路の日本史、たいへん興味深いですね。近年では岩波新書『ジャガイモのきた道』が印象深いですが、同レベルの知的好奇心を刺激される好著でした。
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