モーツァルトは、チェロを独奏楽器とする曲を書かなかったのだろうか、よく知られた範囲では見当たらないように思う。もちろん、バッハやボッケリーニやハイドンに優れたチェロの曲はあるけれど、ベートーヴェンのチェロソナタの魅力はまた格別である。それを痛感させてくれるのが、1807年から8年にかけて作曲された、チェロソナタ第3番、作品69だ。
最初にこの音楽を意識して聞いたのは、大学時代の、音楽マニアでもあった恩師のお宅だったと思う。カザルスのチェロで朗々と歌い出した音楽に魅了されてしまった。それまで地味な音楽だと思っていたのが、実は情熱と叙情を併せ持つ素晴らしい音楽だと気づいたのだった。
先年、学生時代にはレギュラー盤の代表的定番で高嶺の花と憧れたロストロポーヴィチ(Vc)とスヴィャトスラフ・リヒテル(Pf)の演奏のCD(Philips,UUCP-7047)を入手し、ずっと聞いて来た。1961年7月、ロンドンにて録音されたもので、ステレオ初期に属する録音ではあるが、充分に楽しめる録音だ。
第1楽章、アレグロ・マ・ノン・タント。独奏チェロがゆったりと奏する気宇の大きな主題が印象的な、スケールの大きい楽章。チェロとピアノが堂々とわたりあうところは、中期のベートーヴェンの音楽の充実した楽しみだ。
第2楽章、スケルツォ、アレグロ・モルト。活発に動くピアノ、おおらかに歌うチェロが印象的な楽章。
第3楽章、序奏はアダージョ・カンタービレ。主部はアレグロ。序奏の後の壮快な主部、圧倒的な終わり。
■ロストロポーヴィチ盤
I=12'05" II=5'34" III=8'35" total=26'14"
写真のベートーヴェンの肖像は、生誕200年にあたる1970年に、コロムビアの廉価盤ダイヤモンド1000シリーズに添付されたものだ。壁にかけていたこともあるが、学校の音楽室のようなのでやめてしまった。今は、裏面に記載されたベートーヴェンの年譜を調べたり廉価盤の型番を調べたりするために、LP棚からときどきとりだして眺めている。この曲を作曲した頃、ベートーヴェンは37~8才だった。