もう一つ紹介するのは、ブログを始めたころに、一度書いたかもしれない。
幻想SF作家のレイ・ブラッドベリの『ウは宇宙船のウ』に収録されている「霧笛」という短編。
灯台で船に信号を送り、霧笛を鳴らしているマックダンと僕がある一夜に見た物語である。
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ぼくは車のなかにすわったまま、じっと耳をすましていた
ぼくには、寂寞岬に立っている灯台も、その信号灯も見えなかった
ぼくにはあれが聞こえていた、あの霧笛、霧笛、霧笛だけが
その音は、あの怪物の呼び声にそっくりだった
ぼくはそのまま座っていた、なにかひとこといえたらいいのに、と思いながら
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毎年、霧笛の音にひかれて、一匹の恐竜が灯台にやってくる。
霧笛の音が、恐竜の鳴き声とそっくり。
仲間はみな死に絶えてしまい、たった一人で深い海の底眠っていた。
百万年の間、ひとりぼっちで、二度と戻ってこないものを待っている恐竜。
そこへ人間が灯台を建て、彼の仲間と同じ声で、灯台は鳴き続ける。
恐竜はこの音を聞いて、毎年会いに来る。
ところがマックダンは、霧笛を消してしまう。
そうすると恐竜は驚き、怒りって灯台を破壊してしまうのだ。
その後、恐竜は嘆き、寂しがっているような声で鳴きつづける。
しかし、百万年のむこうから彼に呼び掛けてくれるものはいなくなってしまった。
という内容。
以下は、灯台守のマックダンが、後輩に作り話を聞かせる場面。
(萩尾望都 「霧笛」より)
ある日 男がひとりやってきて
その岬のどよめく陽のささぬ浜辺に立ってこういった
この海原ごしに呼びかけて 船に警告してやる声がいる その声を作ってやろう
これまでにあったどんな時間 どんな霧にも 似合った声を作ってやろう
たとえば夜ふけてある きみのそばのからっぽのベッド
訪うて人の誰もいない家
また 葉の散ってしまった晩秋の木ぎに似合った
そんな音を作ってやろう…
引き込まれるでしょ・・・・・