ぬえの能楽通信blog

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伊豆のお稽古~北條寺参詣記(その2)

2008-07-09 08:48:36 | 能楽
北條寺は、じつは千年以上の歴史を有する古刹で、安千代を大蛇に取られた江間の小四郎が、失った我が子を弔うために大改築をし、山号も改めて現在の形になったものだそうです。ご本尊は観音菩薩で、四国の八十八カ所の霊場廻りのようなものが伊豆にもあって、このお寺の観音様も篤い信仰を受けています。また、ことに著名なのは運慶、あるいは慶派の作になる阿弥陀如来像があることで、こちらは国の重要美術品に認定されています。

さて今回の北條寺参詣では、ご住職の渡邉文浩氏のご好意を様々な形で頂きまして、立派な参詣となりました。

まず本堂でご住職による法要があり、出演者一同もご焼香をさせて頂きました。同寺は安千代の菩提を弔うために建立されたので、安千代の位牌があるのです。出演者の小中学生および保護者の方々も安千代に挨拶をし、薪能の成功を見守って頂くようお願いをしました。ことに薪能で安千代役を演じる子にはとくにその説明をしておきましたので、心を込めてお願いしたと思います。

ついで境内にある小山の上にある北条義時夫妻の墓に詣でて、ここでもご住職の指導により出演者一同でお線香を手向けさせて頂きました。北条政子の弟にあたり、鎌倉幕府の二代目執権となった北条義時は、その死後生まれ故郷の伊豆に戻ってきて、我が子を弔うために建てたその寺に眠っているのですね。ちなみに安千代の墓は、長い歴史の中で失われてしまったのだそうです。

さてご焼香のその後! 今回の参詣の最大の行事である、子どもたちによる「子ども創作能 江間の小四郎」の謡の奉納を致しました。創作能の最後の場面、ほんの3分間ぐらいの部分ですが、小四郎役の千早ちゃんの発声により、全員で連吟して義時のお墓に手向けることにしていたのです。稽古ではだいぶ声が出るようになってきたけれど、さてこういう場面になったらみんな声が出るかなあ~? と、ちょっと危惧していた ぬえは、まずみんなで予行練習をさせてみました。いやところが みんな大きな声で謡えます! すぐに練習は終わりになって、今度は本番で創作能の一節を手向けることができました。

この『江間の小四郎』を作って上演を始めてから、もう4年の月日が流れてしまいました。毎年、小四郎役の子には「薪能の前に北條寺のお墓に詣でて挨拶をしておきなさいよ」とは言っているのですが、これまで「行って来ました!」という報告は ぬえにもたらされたことがありません。

今年の小四郎役の子が こういうアドバイスを守って、きちんと墓参りに行ってくれたからこそ、今回のような「ではみんなで詣でて、薪能を見守って頂こう」という企画にまで発展することができたのです。いや本当に行って良かったと思います。

ちなみに、この墓参りのあとで、ふとみると、ブーンと飛んできた虫が一匹。。「あ! 玉虫だ!」誰かが叫びます。えええっっっ 玉虫!? 野生の!? ぬえは玉虫なんて図鑑か昆虫を展示している施設でしか見たことがないが。。うわ、ホントにあの七色の羽を光らせながら ぬえの目の前を飛んでいきました! へぇぇ~~、こんなのがいるんだ。。そして誰かが言いました「玉虫なんて、久しぶり~」  久しぶりっ!? 久しぶりなのか!? はじめてじゃないのか!? 聞けばこの辺じゃカブトムシやクワガタなんて自宅の庭にふつ~にいるのだそうで、ご住職もモリアオガエルのオタマジャクシを育てて増やそうとされていたり、「ほれ」と見せてくださった堆肥の中にカブトムシのサナギがいたり。。すんません、生まれ育ちが東京の田舎者の ぬえは目が点なんですけど。。

義時の墓参のあと、ご住職のおはからいで寺務所や本堂、それから境内のベンチなどを拝借してそこに別れて座り、用意してきたお弁当をみんなで頂きました。当然、お弁当をひっくり返す子が現れたり、大騒ぎだったことはご想像の通りでございます。はい。(T.T)

お弁当を食べてから、いつもの稽古会場に各自移動して、薪能の稽古を致しました。