ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

絢爛豪華な脇能『嵐山』(その1)

2008-07-28 13:14:09 | 能楽
来る8月23日(土)、静岡県・伊豆の国市で開催される『狩野川薪能』において、ぬえは能『嵐山』を勤めさせて頂きます。例によってこの能の見どころや、考えたことなどを書き綴ってみようかと思います。どうぞしばらくおつきあいくださいまし~

まずは舞台の進行について、順次ご紹介して参りましょう。

橋掛りからお囃子方が登場し、同時に切戸口から地謡が登場してそれぞれ所定の座に着くと、後見が幕から桜の立木の作物を持ち出し、正先に据えます。桜の作物は丸台に大きな桜の造花をくくりつけたもの。どうも観世流以外では一畳台に二本の桜の立木を立てたものを出すようですね。『石橋』と同じ感じになるので、これはさらに絢爛ですが、舞台が狭くなるので演者は大変でしょう。

また、観世流も『嵐山』には丸台に付けた桜の立木を出すわけですが、正先に立木の作物を出す場合、観世流では どちらかといえば角台である場合が多いように思います。もちろん舞台上での演技との関係で、たとえばシテが作物の向こう側を廻る『松風』や『胡蝶』、それから立木の作物のほかに井筒を出すため舞台が狭くなってしまう『玉井』には、必要のために丸台が使われたり、反対に装束とか小道具を作物に載せる『羽衣』や『九世戸』に角台を使うのは当然なのですが。。じつはその他の曲に出される立木の台の形が角であるのか丸であるのかを決める決定的な理由が、ぬえにはよく見出せていません。どちらかといえば角台が多いようには思うのですが、なぜ『嵐山』は丸台なんでしょう。。

もっとも、『嵐山』では後に子方が作物の左右から立木に向かって袖を掛ける型があるので、丸台の方が都合がよろしいですけれども。それだからといって、この型があるから丸台が選ばれているとはちょっと考えにくいですね。不勉強で申し訳ありませんが、これは宿題にさせてくださいまし~

さて舞台に作物が据えられて後見が退くと、大小鼓は床几に掛けて、すぐに「真之次第」と呼ばれる脇能専用のワキの登場音楽が演奏されます。

「真之次第」は別名「五段次第」と呼ばれて、大小鼓と笛によって演奏される勇壮・爽快な囃子です。「五段」と呼ばれるように五つの小段に分けることが出来て、その四段目でワキは登場するのが本来ですが、現在では省略されて、全体を三段構成にして、その二段目で幕を上げるのが通例です。ワキの登場の仕方も独特で、幕から姿を見せたワキは正面に向かって大きく伸び上がって袖を拡げ、それから橋掛りを歩み行きます。ワキツレもワキに従って登場し、さてワキが舞台常座に入ったところで囃子は段を取ります。舞台にて最後の小段を演じ、奏するわけですね。この小段をとくに「速メ頭(はやめがしら)」と呼んでいて、囃子はさらに急調になり、ワキはするすると脇座まで出て再び伸び上がり、そのときにワキツレも舞台に入り、常の次第のように一同向き合って「次第」謡を謡い出します。

『嵐山』のワキは「勅使」の役で、ワキツレはその随行員です。ワキは紺地の狩衣に白大口を穿き、大臣烏帽子をかぶり、その烏帽子には赤の上頭掛(じょうずがけ)と呼ばれる装飾の紐飾りが付けられています。ワキツレは俗に「赤大臣」と呼ばれるように赤地の狩衣に白大口、大臣烏帽子に付けられる上頭掛は萌黄色とされているようですが、流儀により違いがあるかもしれません。。

このワキとワキツレの姿は脇能の場合のワキ方の制服のようなもので、勅使でなくても、たとえば『高砂』のように神主の役でも同じです。もっともどうしてもそれでは不都合な役もあって、前記の『玉井』や『道明寺』のような例外もありますが。。