ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

伊豆のお稽古~北條寺参詣記(その3)

2008-07-10 11:42:13 | 能楽
で、いつもの市民会館に場所を移して薪能の稽古を行いました。

ん~。みんなの自覚がだんだんと芽生えてきたような。でもまだ他の子の動作に依存しながら演じている子もいる。その意識のギャップがまだもう少しあるみたいです。たとえば集団で演じる立衆のような武士の役があるのですが、先頭の子が休むと、もう残りの子は動き出すキッカケがあやふやだったり。。地謡の詞章をキッカケに決めてあるのに、先頭の子が動き出さないと動けないとか、もう少しかなあ。

一方、子ども創作能の中で大役を頂いた子が飛躍的な発展を見せるのも毎年決まってこの時期です。これまた、最初からしっかり自覚を持っていて稽古のはじめから物怖じせずに役にぶつかっていく頼もしい子もあれば、ずうっと逡巡していて、どうしても動きがぎこちないままの子もいる。これらの子はこの時期に「自分がやらないと、舞台の上では誰も助けてくれない」と思う心が一致してきて、実力のレベルに差がなくなってきます。

また、毎年4年生以下の子は地謡だけしかお役を頂けないのですが、この地謡が、今年はがんばっています。稽古の最初の方は、もうホントに声が出なくて困ったけれど、この頃は ぬえがそばについていなくても謡えるようになりました。しかも囃子に合わせて謡う地拍子謡です。彼らは来年、再来年には 薪能の子ども創作能で主役を担い、また ぬえのお相手として玄人能の子方を勤める、未来の薪能を支える子たちです。毎年狩野川薪能では小学校4~6年生に参加を呼び掛けているのですが、ところが今年はこんなやりとりが。

「あの~、お兄ちゃんが薪能に参加すると聞いて、妹も私も出たいっ、と言っているんですがまだ低学年なもので。。出演するのはダメですよね?」
「え?ああ、大歓迎ですよ。何年生?」
「それが。。まだ2年生なんです」
「。。(^◇^;)」

で、その子が最初から一番大きな声を出していたりする。ん~、こりゃ来年が楽しみ。。あれ? 来年はまだ3年生か。。それじゃ再来年。。その翌年。。ん~、6年生になって主役級を射止めるのは4年後か。。(;^_^A 気長に、楽しみにしておこう。。

ちなみにこの2~4年生の地謡の子どもたちには、今年は大倉正之助氏の好意もあって連調。。つまり小鼓と大鼓を稽古して薪能の舞台の上で発表することになりました。最初は「アシライ」と言って、短い手組を繰り返して打つことを予定していたのですが、お囃子方にも相談してアドバイスを受けたところ、やはり謡を入れて、それに合わせて打つ方が見栄えもよいし、出し物としても魅力的になるだろう、という意見を頂きました。

やはりお囃子方の助言で打つ手組はごく簡単にして、ぬえが謡を担当して薪能では『高砂』の「待謡」を上演します。これももう大体出来上がったようですが、この伊豆の国市では「シャギリ」という郷土芸能がとても盛んで、多くの子どもたちが町内の大人に習ってお祭りなどのときに笛や太鼓を披露するのです。去年 ぬえはそれも見に行きましたが、へ~~、市内でコンテストまで開かれているんだ。。そういう土地柄だからか、邦楽器は自然と鳴らせるところがすごいなあ。

そして薪能の「子ども創作能」を卒業した中学生。それでも薪能に参加を希望してくれる子が何人かいて、彼らには先輩として「子ども創作能」の地謡のサポートをしてもらうほか、やはり中学生になったら古典として伝えられてきた能の曲に触れて欲しい、という ぬえの希望があって、薪能では仕舞を舞ってもらうことになっています。今年の曲目は『吉野天人』。ちょっと難しいかなあ、とも思いましたが、これも大体形になってきましたね。

ん。。? 待てよ。。すると ぬえは薪能の時にはどれだけ出番があるんだ。。? ええと、連調『高砂』の謡でしょ? 子ども創作能『江間の小四郎』の後見でしょ? 仕舞『吉野天人』の地頭でしょ? それから『嵐山』のシテかあ。。(×_×;) ま、あの子たちのためだと思えば苦にもなりませんが。