ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

伊豆の国市・韮山小学校で「古典芸能教室」

2008-07-16 11:30:30 | 能楽

15日(月曜)、晴天の中、伊豆の国市立韮山小学校の体育館で「古典芸能教室」が開催されました。8月23日の「狩野川薪能」を見据えて、小学校の児童にとっては古典芸能である能を鑑賞し、また体験するワークショップであり、また薪能に出演する子どもたちにとっては、初めて人前で上演する「中間発表会」という意味合いを持ちます。もちろん大倉正之助氏をはじめとして囃子方も勢揃いで、能楽ワークショップとしてはまことに豪華な体験講座と言えるでしょう。



お囃子の先生方の挨拶に続いて素囃子の演奏があって、それから薪能で上演する子ども創作能『江間の小四郎』を上演し、それからお囃子の体験教室となりました。いつも思うんですが、こういう能の実技の体験、それも子どもたちを対象とした体験教室というのは、子どもたちの興味は面装束や舞よりも圧倒的に囃子に傾きますね~~。「やってみたい人!」「は~~~~いっっっっ!!」 シテ方として悔しいっ。(__;)

お囃子の体験教室のあと、さらにお笛の寺井宏明先生が指導する子どもたちによる連管も披露されました。これまた薪能で上演する曲目なので、はじめて人前で演奏するのです。こちらはいつもは中学生も交じっているのですが、この日は平日。中学生は自分の学校に行っているから「古典芸能教室」には参加できません。頼れる中学生がいなくて心臓バクバクもので出演したでしょうし、そのうえ今回はこれまた初めて寺井先生のアシライではなくて囃子方に演奏して頂いた中で笛を吹くのです。ん~、がんばったねえ。ぬえが聞いた限りなんとか破綻せずに吹き通したようでした。

そして綸子ちゃんの『嵐山』。この子方の役は笛の譜を聞き取りながら、それに合わせて舞う難しい役で、すでに寺井先生からご自身が吹く「下リ端」と「天女之舞」の録音は頂いてあって、いつも稽古ではその録音を聞きながら舞っているのですが、さすがに録音と実演とでは印象が違って聞こえる可能性もある。寺井先生には「古典芸能教室」の前夜に、東京での催しの後にわざわざ伊豆までご足労頂き、ぬえが太鼓をアシラって寺井先生に笛を吹いて頂き、実演を聞きながらの稽古も済ませておきました。



綸子ちゃんは、たまたまこの会場となった小学校に在籍していますので、当日も午前中の授業を終えたら早めに会場に入ってもらい、再度稽古をしてから「古典芸能教室」の開演となりました。装束も着けて、暑い中待機していたのは大変だったと思いますが、ところが。。開演中に地謡にミスが起きてしまいました。今回は略式のワークショップでもあり、予算の都合もあるので地謡の出演はたった一人だけお願いしてあったので、それも大変だろうと思って ぬえも『嵐山』ではシテの役があったけれど、最初の方だけは一緒に地謡を謡っていました。

さて「天女之舞」が始まったので、ぬえは舞台の裏に退場して、幕にあたる舞台下手の方へ移動。。そのときミスが起こりました。すぐに気づいたけれど上演は進行中なので如何ともしがたく。。

ところが、二人の子方は、もちろん心の中では「うっ。。」と思ったでしょうが、なんと少し型を自分たちの判断で替えて対処したのでした。そのまま上演は進行、ぬえも登場して、無事に勤め終える事ができました。

アクシデントというものは起きる。プロといっても人間である以上、ミスが起きることもあります。ただ、ミスを絶対に起こしてはならない場面というものもあるのです。そういう場面では慎重にも慎重を期して臨むべきです。。ま、それでも事故というものは予期しないで起きるから事故なのだが。。

ともあれ、綸子ちゃんにはアクシデントに冷静に対処した事を純粋に誉めてあげたけれど、同時にこうも言っておきました。「今回は偶然にうまくいったかも知れないけれど、舞台の上というのは何が起きるかわからない。何度も言うように“飽きる”ほど稽古を積んでおけば、何が起こっても対応できるんだよ。まだ1ヶ月あるから、もっともっと稽古を積んでおいてください」

まあ、チビぬえも含めて二人はよくやったと思います。普通の子どもだったらあそこで立ち往生して、どうしてよいかわからずに泣き出しちゃっても不思議じゃなかったと思う。しかも二人は型を合わせながら舞っているわけですから、型を替えて対処しても相手がついて来れない場合だって考えられたのです。そうなると型を替えた方も演技を続けられないでしょう。結果、立ち往生になる。そういう危険性は高かったのです。舞台を勤める責任感は確実に育ちつつあるでしょう。

子ども創作能の方も、主役級の子どもたちは やはり責任感が育ってきて、こちらはほとんど問題なく堂々と演技できています。ちょっと完成までにはまだ時間が必要かな~、と思うのは大勢で勤める役や地謡で、どうしても不安になるのか、もう少し声を出して欲しいと思います。ま、今回ははじめて人前で演じるので気後れもあったかもしれませんが、舞台に立つ恐ろしさがわかってもらえれば、それが否応なく8月末には自分たちの責務として立ちはだかってくる事も実感できる。まだまだ、あと1ヶ月稽古ができます。みんながんばってね~~Y(^^)ピース!