ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

東北の中学校で感心したこと

2008-10-09 08:35:25 | 能楽

前回お知らせしましたとおり、ぬえはただ今東北に来ております。先日の北海道公演と同じく文化庁の「本物の舞台芸術体験事業」の一環で、今回は4泊5日の日程で宮城県各地の小中学校を廻り、体育館で能の解説、そして ぬえの師匠が能『安達原』を見せる、というもの。

仙台市、大崎市、気仙沼市の中学校を廻って、今日は石巻市の小学校での公演予定です。前回の北海道では小学校中心に廻ったので、やっぱり今回能を見せる対象の中学生はそれと比べると、恥ずかしさも出てくる年齢でもありますし、無邪気に手を挙げて質問したり、上演中に演者に声援を送るような感じではないですが、それでも全体的に見ればおとなしく鑑賞している態度は培われているなあ、と感じます。

まあ、どの中学校でも ぬえは感心しながら子どもたちの様子を見ていたのですが、わけても昨日公演をした気仙沼市の新月(にいつき)中学校の子どもたちには驚かされました。まあ、なんて真剣に舞台を見つめていることだろう! 最初に解説のために演者が舞台に上がり、さてみんなに声をかけると、早速大声で挨拶の言葉が返ってくる。ぬえは遠くから見ているだけでしたが、その後の能の上演のときに地謡に座って見ていると、まあ、みんな生き生きとした目で、固唾を呑んで舞台を見つめています。どの中学校でも 子どもたちは楽しんでくれたり、まあ中には退屈している子どもだって、もちろん少しはいるはずなのだけれど、まず相手。。この場合演者が一生懸命に演じている姿を、とりあえずは尊重する、という態度は、もう立派な大人ですね。

あとでこの新月中学校の先生に聞いてみたのですが、「気仙沼というところは仙台に行くまでもとっても時間がかかるような場所で、この町には映画館もないんです。だから子どもたちは娯楽が少なくて、こういう能を見る機会も本当に喜んでいるんですよ」とおっしゃっておられましたが。。娯楽がないから面白く見てくれる。。それだけではあるまい。

重ねて伺ったところでは、じつは2ヶ月?ほど前に ぬえの師家からここに限らず各学校を廻ってデモンストレーションを行っていまして、能楽公演が行われる前に予備知識を与えたり、それから簡単な発声や運ビなどの稽古も行っていたのです。そのときに今回の上演曲『安達原』の一部を謡ってもらって、「これを公演の際にもみんなで謡ってもらうよ~」と宿題を出しておいた。この日はみんな大きな声を出して謡っていましたが、先生いわく、「毎日お昼休みには先日能楽師の先生から宿題の自習のためにお借りした、謡が吹き込まれたCDを毎日校内放送で流して、みんなで稽古したのです」というお答え。。う~ん、これには ぬえも驚かされました。

やはり人を尊重する態度、そういうものが自然に培われているのかな。。と感心した ぬえではありました。これが普通であってほしいんで、感心されるような世の中の風潮ではいけないですけどね。