ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

そして今年は。。乱能だ!

2009-01-09 01:26:34 | 能楽
そういうわけで今年の予定もほぼ固まってきました。

で、まず最初の ぬえの注目の舞台は。。 乱能だったりするのでした。

乱能というのは、能楽師がふだんの専門職を離れて、たとえばシテ方が囃子や狂言を演じたり、囃子方がシテやワキなど装束を着けたお役を演じたりする、文字通りわざと「乱れた」状態で演じる能・狂言の催しのことです。誰かの年祝いなど、めでたい記念に催されることが多いですね。最近はめっきり少なくなってしまいましたが、中森貫太氏が主宰する鎌倉能舞台だけは5年ごとに記念の乱能を催されています。そして今年は来月。。2月2日に国立能楽堂で「鎌倉能舞台四十周年記念特別公演」として乱能が催されます。

ぬえも前回。。5年前に初めてこの鎌倉能舞台さんの乱能に出演させて頂きましたが、いや~~楽しかったこと! それ以来毎年指を折って5年が過ぎるのを待ち望んでおりました~ (^_^;) 昨年は中森晶三師がなくなられて、お祝いの会とはいえないけれども、故人が乱能を愛していたことから、貫太氏は今年の乱能を決行することに決められたそうです。故人へのお手向けにもなる催しなのですね。。

さて乱能では、自分の専門以外のお役でありながら得意としている分野で異彩を放つ技を見せる人もあり、また、まあ わざと舞台の上でふざける人もありで、もう何でもあり状態です。かつて ぬえが拝見した ある乱能では某シテ方が狂言を演じていて。。それが、もともと生真面目な方なので「どうしてまた狂言を。。?」と思う番組でしたが、案の定 いつものカッチリとしたシテ方の演技ではなくて、とっても困ったような。。おずおずとした狂言でした。これには見所も大爆笑で。。これは間違いなく主催者のイタズラで、ご本人に断りなく わざとお狂言のお役をつけたのでしょうね~

実際には、普通は主催者から乱能のお誘いがあるときにはお役の希望を問い合わせてくださる場合が多くて、鎌倉能舞台さんの場合もそのとおりでした。ぬえは囃子には明るい方ですが、とくに小鼓の稽古を非常に長く続けていたので、乱能では迷わず小鼓のお役を希望します。それも ぬえの場合は「舞囃子などではなく、お能の小鼓のお役をやらせてくださ~い」とお願いしています。そして当日は ふざける事は一切なくて、ふだんは人前で演奏する機会のない小鼓を囃子のアンサンブルの中の一役として打つことを楽しみます。もっとも、ぬえのような立場では、たとえ乱能でも舞台の上で羽目を外すべきではないでしょう。ぬえもそういうやり方でお客さまを楽しませる、というよりは、やはり鼓を舞台の上でちゃあんと打ってみたい、という思いが強くあります。今回は能『邯鄲』の小鼓のお役を頂きましたが、とっても楽しみにしています。いや~~実際、前回の乱能では、囃子って面白いな~と、心から思いましたね。もっとも本職の囃子方から見れば当然 下手の横好きでしたでしょうけれども。。

さて乱能のお役は上記の通り、ふだんとは違うお役を勤めるのですが、ぬえのように、修業時代に親しんだ自分の専門職以外のお役を 本職のように演じてみたい、ということもあり、また全く知らない未知の分野のお役を勤めることもあります。その場合でも、何となく、ですが番組づくりにはルールもあります。たとえばシテ方がワキを演じることは ほとんどないと思います。これはシテとワキとが芸質が似通っていて、ある程度以上の出来が最初から保証されているからで、これではお役を取り換えることから来る面白みが薄いから、なのでしょう。これも絶対ではないですが、なんとなく決められたルールの一つではないかと思います。

ではふだん装束を着ける役の人が乱能では絶対に「立ち方」をしないのか、というと、これまたそうでもないのです。多くの場合狂言方がシテを勤める場合があるし、シテ方もよく狂言を勤めます。これが何故かというと、じつは能の立ち方。。すなわちシテ方やワキ方は、修業時代に囃子は習っても狂言の実技を習うことはなく、また狂言方も同じく囃子は知っていてもシテ方の謡や型を習うことはない、という状況に端を発しているのではないかと思います。つまり能を司るシテ方およびワキ方と、狂言を司る狂言方は、お互いに実技の面では共通項を持ちながら、実際にはそれぞれの実技については ほとんど未知の分野なのです。ですから、シテ方が狂言を勤める場合、それから狂言方がシテを勤める場合は、それぞれ専門職の友人などに頼み込んで猛特訓をすることになるようですね。