ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

乱能の申合

2009-01-29 00:50:05 | 能楽
今日は朝から稽古が続き、そのうえ夜には乱能の申合に行って参りました。あ~、長い一日だった。

今日は乱能の上演曲目のうち、能3番の申合が行われました。やはり大勢の能楽師が出演する催しですから、みなさんのスケジュールを合わせるのは本当に大変で、乱能の主催者はとんでもないご苦労だと思います。シテ・ワキ・ワキツレ・間・囃子・地謡・後見。。どの役をとっても専門外の仕事を見よう見まねでやるのですから、少なくとも主要な演者だけは全員顔を合わせないと申合になりませんし。。

それでも どうしても主要演者のスケジュールが合わない曲もあるようで、最後の手段というか、乱能当日に申合をする曲もあるようです。そこで問題が起きるともう本番までに修正が間に合わない可能性もあるのですが、そこはそれ、どうも少なくとも囃子だけはウデに自信のある方が揃っている曲が当日申合になっているようですから、安心して見ていられるようです。

さて ぬえが鼓を打つ能『邯鄲』ですが、楽(がく=シテが一畳台の上で舞う舞)を少し短縮し、また地謡どころもシテに型のないところは少々省略する、という約束だったのですが、この日申合に行ってみると、どうも地謡どころは省略せずにすべて演奏しよう、という話が持ち上がっていました。おいおいっ

まあ。。普通、ホール能などの公演でどこか地謡を省略する、と決まっても、ぬえは万が一の用心のために全曲覚えて申合には臨むようにはしておりますが、今回は。。鼓の手を覚えるのが大変で、お言葉に甘えて省略箇所として指定された部分の鼓の手は覚えなかったのです。。でも申合の楽屋で言われたことには「なんでも、大小鼓が本気モードだからキチンと全部やろうか、って話になったらしいよ」。。ぬえのせいなのかいっ

で、しばらくしたら大鼓でお相手してくださる関根祥人さんがお見えになって。「こういう機会もなかなかないから全曲覚えてきました」。。本気モードの人。。見つけました。

仕方がないので、恥ずかしながら ぬえは申合では省略箇所だけ本をカンニングしながら打ちました。。当日までには覚えて臨みます。。(×_×;)

で、申合の状況ですが、もうすでに爆笑の連続で。。いや、『邯鄲』に限って言えば、みなさん ふざけて舞台に立っている人はいないのですが、それでも普段と勝手が違って 決まり悪そうなシテやワキの姿を見るだけで、本職の人がそれを見ると。。いや、一生懸命やっている方には悪いんだけれども、ついつい。。一人がプッと吹きだしてしまうと、もういけません。(^◇^;)

ぬえに関して言うと、あれだけ一生懸命覚えたつもりなのに、今日も2箇所間違えました。。あ~ん、もうっ! (`´メ)そのうえ申合が終わった頃には、またしても左腕が痛い~~。それでも久しぶりに小鼓を囃子のアンサンブルの中で打つのはと~~っても楽しかったです! それにしても囃子方は毎日、今日はこの催しであの曲、明日は別の舞台でこの曲、と打ち分けているわけでしょう? それでもメチャクチャに破綻することなんて、まず見たことがありません。ぬえにとって囃子を能一番キチンと打つのがこれほど大変なのに、彼らの記憶力ってのはどうなっているんでしょう??

また今回は、ぬえと同じシテ方の中にも、これほど囃子に詳しい人がいるのか~、と感心しました。ぬえの囃子オタクは有名なのですが、今回の乱能では囃子にとって至難の曲が並んでいます。囃子は主にシテ方が担当する事が多いのですが、今日の申合を見る限り、破綻はほぼ皆無の状態でした。ということは、ぬえ以上に囃子を打つのが大好き! というシテ方が多くいて、こういう機会を千載一遇!とばかりにしっかり研究して来る人が多い、ということを物語っています。笛を担当して、本職であるかのように指が自在に動く人。自分が楽器を打つのに手一杯ではなく、ちゃあんとアンサンブルを奏でたり、さらにはリードまでできる人。

もう次の月曜日が乱能の当日なのですね~。ところが聞けば、この乱能の翌日から海外公演に出かける人がいたり、また乱能の前日に新作能の本番を迎える人もおられるそうです。ひゃ~~、そんな過密スケジュールの中で、よくまあ乱能のお誘いに名乗りを上げたものだ。。それでも申合で頂いたお役の最低限のレベルはきちんと習得してくるんだから。。やっぱりプロだね~、みなさん。