ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

石巻・湊小学校を再び訪問

2011-08-17 02:19:25 | 能楽の心と癒しプロジェクト
まずは無事に帰還致しましたことをご報告申し上げます~。ぬえは初日の出発からして伊豆の稽古から帰って数時間後の深夜の出発でしたが、その後も気仙沼、南三陸町(タイトル画像は南三陸町の様子)、女川町とまわって塩竃市の宿に到着するまで一睡もしておらず、この夜はよく眠りましたが、翌日の石巻市・湊小学校の避難所でワークショップを済ませてそのまま東京へ帰り、自宅に到着したのは午前5時。ちょっとハードなスケジュールでしたが、まずは事故やケガが起きずに無事に帰れたことが最大の成果と言うべきでしょう。今回は ぬえ一人ではなく、能楽界の中でも家を継ぐべき人が参加してくださいましたから、事故でも起こしたら大変なことに…。これは暗黙の了解で、お互いに無理をしないように気を付けていましたし、運転は交代できましたが、無理があればその場でそれ以上の進行をうち切って仮眠に入ることに躊躇はありませんでした。

さて塩竃市でホテルにチェックインしてから近所のお店で作戦会議。翌日のワークショップの内容を詰めましたが、これがまた面白かったです。ぬえは面装束を着て能『石橋』の一部を見せることにしていましたが、装束というのはワークショップの際には意外に厄介で、もちろんご覧になって頂く方にはインパクトはあるのですが、そのほかの事が何もできなくなってしまいます。そのうえ準備にも片づけにも相当の時間を必要としてしまいますし、着る前…はともかく、脱いだ後の面装束はほったらかしにする事は許されませんから、その扱いや置き場所にもかなり神経を使い…事実上演じるよりほかの事をするのは不可能になるのです。このことは今回同行してくださった狂言方のO君も同じ事を言っていまして、囃子方のTさんと3人で話し合いの結果、そのO君が司会進行役を務め、シテ方である ぬえは舞を、それからお二人は囃子方、狂言方のそれぞれの立場でお話をしたり実技を見せたり、参加者に体験して頂いたり、と、順番に参加者にアプローチをする、ということに決まりました。

それでホテルに帰って…この日はそのまま バッタリとベッドに倒れ込んで眠りました。ああ、布団って、なんて優しいの~??

さて翌日はチェックアウトぎりぎりの10時までねばって部屋に居座って休養のだめ押しをしてから出発。まずは塩竃神社に参拝して今回の度の成功を祈り、それから石巻に向かう途次に、被災地を見て回ることに。奇跡的に大きな被害を免れた松島は、それでも1ヶ月半前に訪れた際は営業を再開しているお店は半数程度、ということでしたが、今回見た印象ではほとんど 震災以前と変わらないほどに復旧しているように見受けられました。前回食べたスタンド売りの焼き岩牡蠣の味が忘れられず、今回も楽しみにしていたのですが、観光客でいっぱいの松島は駐車場も満杯で、ついに諦めることに。これなら松島の復興も時間の問題でしょう。やはり自然の堤防は偉大だった。

しかし女川や奥松島は…ほとんど見捨てられたかのような有様でした。瓦礫はずいぶん撤去されましたが、それはつまり…更地になっただけのことで…。今回の訪問ではお盆休みということもあるのか、重機が動いている場面には一度も遭遇することがありませんでしたが、それだけに更地になった土地が空虚にしか見えなくて…。今回印象的だったのですが、甚大な被害があった地域では、まず被災者の捜索が行われ、次いで重機が入る道を作り、さて瓦礫を撤去して。ここまで順調に進んでも、さてその後は…? これは難しい問いかもしれません。こうやって更地になった土地をどうやって復興に導いていくのか。今はまだそこまで考える段階ではないかもしれませんが、この土地の再利用は元通りに建物を建てれば進む、というほど単純ではないでしょう。難しい問題はこれから長い年月を費やしてひとつ一つ克服してゆくしかないのかもしれません。

女川の被災状況


この後 ぬえたち一行は明友館の千葉さんにご挨拶に伺いました。今回の訪問では ぬえが前回ちょっぴりだけボランティアに参加させて頂いた湊小学校を再び訪れて、今度は本業の能楽のワークショップを持つという慰問ボランティアが実現したわけですが、そのコーディネートはすべて千葉さんのご尽力によるものです。そこで御礼を申し上げるために明友館に行ってみると…ををっ、ちょうど千葉さんが物資を積んだ軽トラックで出動するところです。急いで車を停めて千葉さんにご挨拶、今回同行してくれた仲間の能楽師を紹介して…ぬえは用意した扇を千葉さんにプレゼントしました。こんな事では恩義に報いることはできませんけれどね…

こうしてようやく楽屋入り。ワークショップの会場である湊小学校に、1ヶ月半ぶりに到着しました。