ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

能楽ワークショップin湊小学校終了~♪

2011-08-23 00:28:47 | 能楽の心と癒しプロジェクト
さて ぬえの上演が終わってすぐに、面だけを取って装束のまま、お客さまに『高砂』の「待謡」のレクチャー。これは前回の湊小学校訪問でもやってみたのですが、やはり見て頂くだけじゃなくて声を出して頂くことが重要だと思っていました。

避難所で住民のみなさんは…正直言ってあまりやることがないのですよね…。もちろん被災者であっても体力のある方は自宅の片づけをされたり、またはボランティアに混じって瓦礫の撤去など町の復旧作業をされる方もあるようですが、ここ湊小学校では住民には高齢の方が多く、暑い教室の中でじっとしている方が多いように思いました。ですからボランティアとして体操教室なども定期的に行われているようです。

ぬえは前回の訪問で、住民の方に大声を出すことをお勧めしておきました。大声…これは出していないでしょう。もとより団体生活ですから簡単ではないでしょうが、場所を見つけて大きな声を出して発散することは身体の内側の筋肉を使うから良いんですよ~、とお勧めしました。考えてみれば、ぬえなどは毎日大声を出すお仕事なわけですが、そうでもないと、なかなか普段の生活で大声を出す機会ってないかもしれませんね。魚屋さんは別ですが~(←なぜ限定?)

今回は ぬえはしっかり「待謡」のプリントを作って持参しておりました。これでも ぬえはプリント魔でありまして、謡をお稽古されている生徒さんには どっさりプリントを出します(ときどきヘキエキされてしまいますが…)。ヨワ吟であれば音階図に五線譜…はてはPCで開くと自動演奏するファイルまで作ります。仕舞のお稽古をされている方には自作のDVDまで! …今回もプリントをお渡しして さらっと待謡を謡って頂きました。

…こうして ぬえの出番は終わり、この日のうちに東京に帰るスケジュールでしたから、ワークショップの「締め」は狂言のOくんと囃子方のTさんにお願いして、ぬえは装束の片づけを始めました。チーム神戸のボランティアさんの水島さんが、なんとキンキンに冷えたタオルを持ってきてくださり(どうやって冷やしたの??)、ペットボトルの水を人数分持ってきてくださいました。これはうれしかったです~。もう、いくら水を飲んでも足りない~

で、ワークショップが終了するのを待ったのですが…これがいくら待っても終わらない。(O.O;)

もう「レイちゃん」に荷物を積み込んだ ぬえが体育館に戻ってみると、あれあれまだお話しています。結局予定を1時間オーバーしてようやく終了したようで、つまりそれほど質疑応答が活発だった、ということです。見たところ、参加者のうち10名さまほどが居残ってくださって、 ずっと質問をしたり、二人の能楽師がそれに答えたりしていたようです。すごいなあ。

ようやく終了してお二人が着替えているうちに、ぬえはチーム神戸のみなさん、湊小学校の避難所本部、そして明友館にもご挨拶を済ませて、夜7時半頃に石巻を出発しました。

ああ~まだノドが乾く~、腹へった~、というわけで石巻市内のラーメン屋さんで、ええと、ラーメンで乾杯~。ここはとってもおいしいお店でした~。そうして、あとはひたすら東京への帰り道…交代で運転しながら、OくんとTさんをおうちまでお届けして、ぬえが自宅に帰ったのは翌朝5時でした。

このワークショップ、三人三様の特色が出て面白いものになったと思います。最初こそ、狂言方ひとりでは本狂言もできない、シテ方ひとりでは能もできない、囃子方ひとりでは四拍子が揃ったあのアンサンブルの力強さも聞いて頂けない…結局、三人がそれぞれ「お話」をすることになるのかな? とも思ったのですが…。それでも ぬえは今回は 能を知って頂くためには装束を着る事は必要と思いましたので、ちょっと変則な形で、狂言のOくんに着付けをお願いしたり、囃子方おひとりをお相手に願って舞うようなご迷惑をお掛けしてしまいました。でも、結果として 能をよく知って頂けたと思いますし、ぬえの目標であった「浄化」というようなことも曲がりながらにできたのではないかと思います。

それに、なんと言っても住民の皆様に喜んで頂けたのがよかった。1時間の質疑応答が、それをよく表していたのではないかと思います。ぬえに賛同して献身的にお付き合いしてくださったOくん、Tさんに改めまして御礼申し上げます。そして今思うのは、やっぱり事故がなかったのがなによりでした。OくんもTさんも、身軽に ぬえにお付き合い頂いたのですが、能の家を継ぐ立場の方でもありますんで… ぬえも事故は恐れました。正直言って、万が一のことがあったら、被災地支援どころか反対に能楽界にとって大事件になるかも…。師匠にはもちろん事前にご報告申し上げていたのですが、その折も「まずは無事に帰って来ること」と、厳しく申し遣っておりました。

また、今回の湊小学校訪問を実現させてくださいました金田真須美さんや水島緑さんはじめチーム神戸のみなさん、千葉恵弘さんほか明友館のみなさん、には感謝のしようもありません。そのほか石巻市の復興に携わるすべての方々に ぬえは心から敬意を表させて頂きたいと思います。