ぬえの能楽通信blog

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活動報告書(08/16~17)

2013-10-24 10:18:31 | 能楽の心と癒しプロジェクト

能楽の心と癒やしプロジェクト
第16次被災地支援活動(2013年08月16日~08月17日)


 〔活動報告書〕

【趣旨と活動の概要】

 東日本大震災被災地支援を目指す在京能楽師有志「能楽の心と癒やしプロジェクト」の4名(※注1)は、能楽の持つ邪気退散、寿福招来の精神を被災地に伝えるべく、2011年6月よりすでに15度に渡り岩手県釜石市、宮城県石巻市、気仙沼市、南三陸町、女川町、東松島市、仙台市、大崎市、および福島県双葉町の住民が避難している旧埼玉県立騎西高校避難所にて能楽を上演することによって被災者を支援する活動を行って参りましたが、このたびメンバーの八田、寺井は、去る8月16日、および同月17日の2日間に渡り宮城県・気仙沼市および登米市内にて計4回、能楽の上演を行いました(※注2)。

今回の活動はNPO法人「JIN'S PROJECT」との共催とし、気仙沼市内2カ所の仮設住宅での慰問活動、気仙沼階上地区で地区の精神的支柱となっている地福寺さま主催の「送り火の集い」への出演、およびはじめて活動する登米市にある本格能舞台「伝統芸能伝承館」(通称:森舞台)での上演を行いました。

今回の活動で特筆すべき点は多々ありますが、中でも気仙沼市内の2カ所の仮設住宅での能楽上演に、5名の市民が参加して住民へのボランティア支援活動を展開したことでしょう。この市民ボランティアは市内のNPO団体「ネットワークオレンジ」が街を活性化する目的で行っている起業支援プログラムによって起業した人々で、「ネットワークオレンジ」を介して八田と知り合い、プロジェクトの活動にご一緒して頂けるようお願いしたものです。被災地では仮設住宅の住民と家屋の被害を受けなかった市民との間に微妙な温度差も生じており、お互いの交流も限定的です。この度の市民ボランティアの中にも仮設住宅を初めて訪問した方もあり、今回のような市民を巻き込んだ支援活動が、市民が仮設住宅への支援を行う契機になればよいと希望しております。

また気仙沼市では2012年の冬以来仮設住宅での活動の実績が途絶えていました。この度の2カ所の仮設住宅訪問は、いずれも市民によって受け入れの交渉を進めて頂いたもので、市民との有機的な関係が構築されたと感じます。さらに仮設住宅での医療支援やイベントの斡旋をしておられる市民ボランティアさんとも知己を得、今後の活動の発展に期待を持っております。

気仙沼・階上地区の地福寺ではすでに2度活動を受け入れて頂いており、今年は3月11日の前日に地福寺主催で行われた追悼法要に出演させて頂き、またプロジェクトの公演にご住職の片山秀光氏に来演願ったり、と深い交流を続けております。この度は地福寺主催の盂蘭盆会の法要会「送り火の集い」にお招き頂き、一部の演出面もお任せ頂きました。これによりこのところプロジェクトの活動に協力してくださっているピアニスト・御子柴聖子さんの出演をお願いし、先日石巻の秋田屋庭園で行った「能とピアノの夕べ」公演を厳粛な雰囲気となるように改編して上演致しました。地福寺さんお取りはからいにより「ともしびプロジェクト」によって境内に多くのキャンドルが灯され、また最近地福寺が導入した200個のソーラー電源のLEDライトが敷地内に灯り、大変雰囲気を盛り立てました。プロジェクトでは2012年の夏頃より活動目標として「文化の復興」を目指しております。今回の「送り火の集い」は、あくまで法要が主眼の集いではありますが、芸術文化がそれに華を添える役目を持ち、この目標のための活動の一環として捉えております。なお地福寺「送り火の集い」の設営や準備には檀家さんの「花園会」さまのご協力を頂きましたことを申し添えておきます。

登米市は内陸にあり、津波の被害は受けなかったものの、地震の被害は相当にあり、また南三陸町とは歴史的に深い関係にあって、市内に南三陸町の住民のための仮設住宅を多く受け入れています。また宮城県の民俗文化財にも指定された「登米能」が伝承されているなど文化の香り高い土地で、今回は「伝統芸能伝承館」の本格能舞台を拝借させて頂き、むしろ伝統芸術の普及の意味合いが濃い活動となりました。登米市では市長さんとの知己も得、今後被災住民への活動の展開も期待しております。

このように、今回は短い滞在日程の割には大きな成果が得られた活動だったと思います。また将来的にも活動のさらなる展開を予感させるものとなりました。関係各位のご尽力に深謝申し上げたいと思います。

※注1 プロジェクトメンバーは八田達弥(シテ方・観世流)、寺井宏明(笛方・森田流)、大蔵千太郎(狂言方・大蔵流)、小梶直人(同)の4名。ただし都合により今回は八田・寺井の2名での活動となった。
※注2 今回の上演場所は気仙沼市①鹿折中学校住宅②地福寺③反松公園住宅、登米市④伝統芸能伝承館(森舞台)の4箇所。

【出演者】
八田達弥、寺井宏明(以上能楽の心と癒やしプロジェクト)/大川典良(能楽師・太鼓方)
地福寺「送り火の集い」共演者:御子柴聖子(ピアニスト)/片山秀光(地福寺住職)
【共催】
NPO法人 JIN'S PROJECT
【協力者】
気仙沼市:NPO法人ネットワークオレンジ/鹿折中学校住宅自治会/小野寺由美子(鹿折復幸マルシェ・小野寺商店)/地福寺/地福寺花園会/ともしびプロジェクト/反松公園住宅自治会/村上緑(パワーストーンGreen)/米倉三喜子(復康フットサロンよつば)/村上朋子(ココ♥カラ)/白幡まさえ(おぢゃのみ工房子葉輝)/村上寛(コンビニエンスサービス ヒロ)
登米市:とよま振興公社/日本学校俳句研究会/横山不動尊
前島吉祐(能楽写真家)

【活動記録】
 8月16日(金)
10:00より気仙沼市・鹿折中学校住宅にて「能楽の心と癒やしをあなたに」公演。能『羽衣』を上演、囃子と装束着付けの体験コーナーを行う。起業家ボランティア3名とアシスタント少数名により住民サービスも実施。参加住民約30名。

夕方19:00より階上地区・地福寺にて「送り火の集い」に参加。御子柴聖子のキーボード演奏、能『羽衣』、片山秀光住職による法要が執り行われる。参列者約80名。

 8月17日(土)
10:00より気仙沼市・反松公園住宅にて「能楽の心と癒やしをあなたに」公演。能『龍田』を上演。囃子と装束着付けの体験コーナーを行う。起業家ボランティア4名とアシスタント数名により住民サービスも実施。参加住民約25名。

15:00より登米市・伝統芸能伝承館(森舞台)にて「能楽の心と癒やしをあなたに」公演。能『猩々』を上演。囃子と装束着付けの体験コーナーを行う。本公演は登米市出身の協力者の計らいにより日本学校俳句研究会の援助を受けて実施させて頂いた。

【収入・支出】

  プロジェクトの活動は基本的に募金によって行われております。近来JIN'S PROJECTさまとの共催の形を取り、同団体の斡旋により企業より活動資金の一部を補助頂くことができ、今回も交通費のみご支援を頂くことができました。

  募金は基本的にプロジェクトのボランティア活動資金(以下「ボラ」)として使わせて頂きますが、とくに被災地への直接支援を目的にプロジェクトに寄せられた義援金(以下「ギエ」)はプロジェクトとして支援するのに然るべき団体。。被災地に拠点を置き、直接被災者の支援活動に従事することを目的とした、非営利で公明正大な活動が長期に渡って期待できる、信頼すべき団体に寄付させて頂きます。

  プロジェクトの活動資金としては、前回活動繰越金として291,202円(内訳:ボラ258,702円 ギエ32,500円)があるほか、今回の活動中およびその前後に4名の個人(ハシモトさま、ヤマナカさま、エノキさま、タチバナさま)および1つの団体(日本学校俳句研究会さま)より活動資金として計66,000円を頂戴致しました。よって計357,202円(内訳:ボラ 324,702円 ギエ32,500円)が今次活動の前に計上されております。

これに対して今回の活動による支出の内訳は別紙決算報告書にある通りで、今回の活動終了時の残額は 317,372円(内訳:ボラ284,872円 ギエ32,500円)となっております。これらは今回の活動繰越金として計上し次回活動の資金として有効に使わせて頂きます。

  プロジェクトの訪問公演の支出につきましては節約を旨としております。交通費節約のため、できるだけ深夜割引の制度を利用して終夜運転をして早朝に現地に到着するなど工夫はしておりますが、体力や公演スケジュールによって、必ずしも深夜走行ができない場合もあります。宿泊につきましては、従来は住民ボランティアさま等のご厚意により無料、または安価での宿泊ができましたが、街が落ち着きを取り戻しつつある昨今では旅館などに宿泊する機会も増えてきました。この場合にも宿泊費はおおよそ5,000円まで、素泊まりを旨としており、食費については酒食の区別がつきにくいため、すべて自己負担としております。

前述の通り今後は企業さまのご支援を頂ける可能性もありますが、今後も長期に渡って被災地での活動が継続できますよう、みなさま方には引き続きまして活動支援をお願い申し上げる次第です。

【成果と感想・今後の展望】
プロジェクトとして第16次となる今回の支援活動では、約2年ぶりに気仙沼市の仮設住宅での訪問活動を行うことができました。それも市民の斡旋によって実現することができたのであり、また市民ボランティアのご協力を頂き住民サービスという、能楽師にはできない「付加価値」のついた活動となりました。もとより復興は市民の努力によって達成されるものであり、その一助となるべく活動を続けるプロジェクトとしましては、市民と共同で活動を行えたことを大変意義深く思っております。

その意味では地福寺の「送り火の集い」も同等の価値を持つ活動であったでしょう。地福寺主催の法要にお招き頂き出演させて頂いたことは、大変ありがたいことでありました。地福寺では本年3月の震災の日に合わせて震災メモリアル・コンサートと犠牲者への法要が行われましたが、そこにもプロジェクトは参加させて頂き、法要の場にての上演をお許し頂きました。片山住職には我々プロジェクトの活動について大変ご理解とご支援を頂いております。

登米市の活動は、プロジェクト・メンバーの寺井宏明の生徒さんの繋がりがあって、本年3月に気仙沼リアスアーク美術館で催した「星と能楽の夕べ」公演に、多くの登米市出身の方がボランティアスタッフとして参加してくださり、この方々の活躍のおかげで公演が成功した経緯があります。前回8月の15次活動にて登米市の関係者とも懇談し、また前回スタッフとして活動に協力頂いた方の尽力によって今回の公演が実現しました。前述の通り登米市は南三陸町の被災住民のための仮設住宅を受け入れるなど独自の活動を展開しておられ、また文化の香りの大変高い街です。今回は市長さんとも知己を得ることができ、今後も仮設住宅への訪問や、当地の伝統芸能との交流など、新たな活動の展開を期待しております。

一方、東京のNPO団体 JIN'S PROJECTさまとは今回も共催という形を取らせて頂き、活動資金の面では大きなご協力を頂きました。ご紹介頂いた支援企業さまからはプロジェクトのメンバーの交通費のみと使途を限ってご援助頂いているのではありますが、そのおかげでプロジェクトに一般の協力者の方々より募金として頂いている活動資金の支出を抑えることが出来、これにより共演者の交通費などをプロジェクトとして負担できるようになりました。従来、プロジェクトのメンバーの交通・宿泊費を調達するのが精一杯で、共演者にはすべて自費負担でご協力願っておりましたが、それでは活動にもいずれ限界が来てしまう危機感を抱いておりましたが、JIN'S PROJECTさまの協力を得て、当プロジェクトの活動はその幅を拡げることができるようになりました。JIN'S PROJECTさまとは来年に向けてより大きな活動の目標を立てているところで、新たな目標に向けて今後もともに手を携えて活動してゆきたいと考えております。

以上、総合的に見て今回の活動は、コーディネートや準備段階から実際の活動にまで渡って、まさに市民・住民さんが主体になって実現できた活動だったと言えると思います。改めまして関係各位に心より感謝申し上げます。しかしこの活動の直後に気仙沼市鹿折にあった被災漁船「第十八共徳丸」が解体され、震災遺構も次々に消滅しつつあり、震災の風化がまさに懸念される状況です。また一方当地では防潮堤の建設について大きな問題が起こっています。我々能楽師はそれらの問題には無力でありますが、あくまで能楽の持つ力。。まさしく「能楽の心と癒やし」を個人の心に響かせることを目指して、もって「文化の復興」を構築するお手伝いを致し、そこから生まれる活力をもって素晴らしい街の再生に寄与したいと考えております。どうぞ今後とも変わらぬご支援、ご教示をお願い申し上げる次第です。


平成25年10月24日




                             「能楽の心と癒やしプロジェクト」

                               代表   八田 達弥

                             (住所)
                             (電話)
                             E-mail: QYJ13065@nifty.com