ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

第17次支援活動<東松島市・陸前高田市>(その2)

2013-10-30 01:43:29 | 能楽の心と癒しプロジェクト
【10月20日(日)】

例によって前夜から出発して深夜走行して東北に行くつもりのところ、活動の共催として頂いているJIN'S PROJECTの折尾仁代表から、自分たちも車で東北を目指すつもりだが、仁さん本人のほか、スタッフの一部の者を ぬえ車に同乗させてほしい、との依頼が直前に来て、急遽公演当日の朝に東京を出発することに。これが朝日新聞の記者さんでした。車中でもビデオを回されて、え~、正直このとき ぬえは時々ウザく思ったのですが、そんな気持ちが吹き飛ぶような動画が昨日配信されまして。。その車中の様子が、これから活動に向かう高揚感と、それから緊張感がほどよく記録されていました。。この動画には、よくこの瞬間を撮ったなあ?? と思うような場面もあって、撮られていた ぬえが気づいていない。。まさにプロの技でした。

前述の車中の出来事も、ぬえが軽く手を打ちながら大鼓を打っていて、じつはこれはこの日の上演曲『羽衣』をさらっているのではなくて、数日後に控えた東京での舞台で『姨捨』の地謡を勤めるので、その勉強をしていたのです。でも映像を見ると、まるでこの日の舞台のための準備を車中で再確認しているように見えますね。まあ、有り体に言えば『羽衣』のような身近な曲を上演当日に緊張感を持って復習する、ということも ぬえの立場ではもうありません。しかもこの曲は被災地でもう数十回舞っていますし。それでも初めて訪れる東松島の仮設での上演を前にして、しかも折からの悪天候で、屋外での上演という当初の予定が崩れたために、計画を練り直さなければならない事情もあって、そういう緊張感はずっと持っていました。このときは、当日の上演方法について考える頭を少し休めて、その次の東京での舞台に向けての勉強に切り替えていたところだったのですが、どちらもこれから ぬえを待ち受ける舞台に対する準備には相違なく、その気分を、動画を見るであろう一般の方々にわかりやすい形で切り取ったのが、この車内の映像だったのだろうと思います。

東松島市に到着、昼食を摂ると、ほぼ予定していた楽屋入りの時間になりました。ここまで長時間の道のりを、気を遣ってくれた仁さんが多くの時間を運転してくれたため、ぬえも屋内に変更された今日の公演のやり方について練り込むことができました。まずは楽屋入りの前にショッピングセンターに寄って、花束をあつらえてもらうところから、この日の ぬえの新しい計画は動き出しました。

今回の活動ではたった2日間の活動期間の中で、上演もたった2回だけ。1日1回の上演というのも、プロジェクトとしてはあまり例がありません。大概は、せっかく当地まで赴くのだから、と欲張って、1日に2カ所で活動するのが当たり前で、1日に1回の上演は、その受け入れ先が見つからない場合とか、長距離の移動を伴う場合に限られていました。だからいつも忙しい思いをしながら活動しているのですが。。

この日、活動場所となった グリーンタウンやもと仮設住宅は250世帯を有する巨大な仮設住宅です。今回は最初から東松島市での活動をターゲットにしていましたが、当初は(一度断念している)「星と能楽の夕べ」公演の実現を目指していました。ところが なかなか設備やシチュエーションが似合う会場が見つからず再度断念。。市とも相談して、今回は「能とピアノの夕べ」公演を行うこととしました。「ピアノ公演」こそ、この8月に初めて石巻で行った上演形式ですが、意外や大きな成果を得ることができて、これまたプロジェクトの上演形態のひとつとして今後も進めていくことになり、早速にこのたび東松島での上演に至ったわけですが、考えてみれば「星と能楽」にしろ「ピアノ公演」にしろ、それは仮設住宅での【慰問活動】とは別の、もうひとつのプロジェクトの目標。。「文化の復興」を成就するための【イベント】として考えていたもので、これを仮設住宅で上演するのはこれが初めての試みでした。