18時を回った。薄暗くなっている。部屋はトリプルベッド。広々している。部屋の南西部の四角のコーナーが透明ガラスになっている。明るい。バスタブが割とゆったり目かな。ウォッシュレットがなかなかでかい。じっとしていると寒さを覚えるので、温度調節を22度にした。京都に住んでいる娘は、仕事を終えてから、新幹線に乗って駆け付けることになっている。やや遅くなりそうだ。夕食の時間に間に合ったらいいのだが。
ああ、ほんとうにいつまで体が保つかなあ。こころもとない。いつまで元気でいられるのかなあ。元気で旅をして回れるのかなあ。自分の足でこつこつ歩く旅というのが、旅というもの。旅にふさわしいもの。
今日は疲れた。びっしょり背中に汗を掻いた。数時間歩いたというだけで、このざまだ。日頃いかにだらけているか。だらけきって来たか。それがあからさまになったようだ。
神戸は都会。都会は若者の集結するところ。田舎に比べたら、若い人で溢れている。歩く足音に活気がある。それに目を回したのかもしれない。そういう元気いっぱいの靴音なんか聞き慣れていないのである。
ホテル北野ぷらざ六甲荘に到着した。神戸は坂道につぐ坂道。そこを歩き通した。JR三宮駅からの往復。湊川神社を参拝して、三宮駅で降りて、次は一宮神社にやって来た。一宮神社は小さな神社だったが、静かで清々しくて落ち着けた。神戸には、ほかに二ノ宮三ノ宮、四の宮、五の宮、六の宮、七の宮、八の宮とあるそうな。親切な巫女さんが教えてくれた。付き添うようにして。巡ってみたいもの。数年掛けてチビリチビリ。でも年を取った。坂道坂道でへとへとに疲れた。足が動かない。この先何年旅ができるか。こころもとない。そうだ! 泣き言を並べるよりか、日頃から足を鍛えておけばいいのだった!
神戸駅の中のマクドナルドの店に入って☕コーヒー休憩。歩き疲れたなあ。よく歩いた。マックシェイクカフェオレが甘いぞ。客が立て込んでいる。行き交う人行き交う人行き交う人。都会は賑やかだ。湊川神社は素敵だった。期待を超えていた。広々としてた。静かだった。楠木正成にちなんで境内は楠木が生い茂っていた。新緑がまばゆかった。はるばる訪ねて来てよかった。
ホテルまでタクシーをつかった。荷物を預かってもらった。歯を磨いた。これから湊川神社参拝をしたい。電車の三宮駅まで歩く。それから電車に乗る。
まもなく新神戸。自由席は男女の外国人旅行者で溢れた。通路もギュウギュウ詰めだった。姫路で下車された。お城に行かれるのかな。降りたら、駅周辺で昼御飯を食べよう。それからレンタカーを借りよう。まず、南朝方の忠臣、楠木正成を祀る湊川神社参拝をしたい。お天気はいい。
新鳥栖駅発9時32分新幹線さくら号に乗れた。自由席に座れた。やれやれ。指定席は取れなかったが、自由席はガラガラに空いていた。2時間40分ほどで着く。その間はすやすや眠って行こう。時には起きて本を読んで。もう博多に到着した。満席になった。
アイリスが咲いたアイリスが咲いたアイリスが咲いた。白いアイリスが咲いた。庭に白いアイリスが咲いた。庭の朝をうつくしくした。朝の朝日をうっとりさせた。アイリスというのは剛胆剛毅なんだなあ。でも歴(れっき)とした遊び人風情。感情発露をして、清廉潔白となって、それでいてなんのこともないという顔つき。このさぶろうなんか及びもつかないぞ。アイリスが咲いたアイリスが咲いた、四月の青空にすっと立っている。
いくたびもいくたびもただ接吻と抱擁をする春よ霞よ 薬王華蔵
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ただ接吻と抱擁をしているだけでいいのではないか。春と霞がそうしている。それでいい仲となる。われわれもそうしていればいいのではないか。すまし顔賢者になるよりか。労して働いているよりか。金儲けに奔走しているよりか。戦争をしているよりか。人を憎んでいるよりか。宇宙中はみなこうしてうっとりとしていればいいのではないか。
うっとりせず、恐い顔をしてやたら凄んでいるお偉いさんがごまん。正義という傲慢の旗を振る人がごまん。