詩「誰も居ない」 薬王華蔵
誰か居ないか。誰も居ない。誰も居ないでいい。誰も居ないでいいのだな。
わたしと話をしている口は誰の口だ。椎の若葉の下影を、風が流れていく。
四月になってもさぶろうには誰もいなかった。居ないでいい訳はなかった。
詩「誰も居ない」 薬王華蔵
誰か居ないか。誰も居ない。誰も居ないでいい。誰も居ないでいいのだな。
わたしと話をしている口は誰の口だ。椎の若葉の下影を、風が流れていく。
四月になってもさぶろうには誰もいなかった。居ないでいい訳はなかった。
6
みんながしていることをしていりゃ、楽しいんだ。そのはずなんだ。そうしてりゃクエスチョンなんか、丁度いいくらいのアンサーで埋まってしまうんだ。それを楽しみにする、と決断する。それでいいんだ。
5
固い表情の老爺がひとり。こむずかしいなあ。ひとりでジブリの映画でも見て来りゃいいのだ。マックドナルドの店に入ってハンバーガーのサンドイッチを口に挟んでりゃいいのだ。それもできない。
4
路上に、わたしを楽しませてくれるものが落ちていないか? きょろきょろ見回す。じゃ、それを見つけたら、わたしはさっそく双手を挙げてそうするのか? にっこりして楽しめるのか? それにも自信がない。
3
そろそろ例の認知症が始まったのかな。クエスチョンばかりで、アンサーがない。逃げることばかりを考えてしまう。逃げてもどうにもなるものか。
2
今日はこれから何をすればいいんだろう? 今度はこのクエスチョンが目の前に立っている。アンサーがあるか。ない。逃げなきゃ。
1
何をしてたら楽しいんだろう? このクエスチョンに捕まってしまった。アンサーが見つからない。逃げなきゃ。
そろそろ12時。ということは? 一日の半分が過ぎたということなんじゃないかな。早いなあ。僕はまだ何にもしちゃいないのに。
でもさっきのお客さんに、ミヤコワスレの株分けを2株シャベルで掘って差し上げた。高貴な色の濃紫の、小さな花が咲いている。春が巡って来て、株が成長して20株くらいに増えた。やっと片手に掴めるくらい。この花は日陰で育つ。
市役所が12時を知らせるチャイムを鳴らした。さ、立ち上がろう。ともかく出掛けよう。室内はちょっと肌寒い。でも、外は光が溢れていてあたたかそう。
ことばの野菜類を畑から抜いて来て、洗って、丁度いい長さに切って、火を入れて焚いて、あっさり目の調味料を施して、冷ましてから硝子の皿の上に載せる。ならべる。盛る。これでわたしの詩が出来上がり。ベジタリアン向きの詩の料理だから健康にはいいという触れ込みのチラシを、近所に数枚配布しておいた。料理の素材はみんなことばだから、安上がり。食べてくださる人にお出しする。ここはそのレストランだけど、お客の顔がない。猫がうろつき回っているだけ。猫がすました目で座り、今日のお客さんになる。それっきり。さみしいレストランだ。硝子の皿が窓のステンドガラスの色に光っている。
柑橘類の八朔がおいしい。10時のおやつに、ぺろりと一個まるごと食べてしまう。指先で丁寧に剥いて。4個で380円。スーパーで買って来る。季節が動いているので、ちょっと表面に皺皺が出来てきている。好きなものは、そこらはお構いなし。指と唇が糖分でべたつくので、台所へ行って水を流す。これでおしまい。留守居するもののお楽しみ。おやおや、玄関にお客さんだ。