夜中の温泉露天風呂に入って来た。一人だった。民謡を歌って来た。何曲も何曲も。いい気持ちで。月は顔を見せなかった。まもなく10時半。
部屋に戻って来たが、眠れない。
夜中の温泉露天風呂に入って来た。一人だった。民謡を歌って来た。何曲も何曲も。いい気持ちで。月は顔を見せなかった。まもなく10時半。
部屋に戻って来たが、眠れない。
1
諸仏世界 復不可計 無数刹土 光明悉照 大無量寿経・讃仏偈より
2
しょぶつせかい ぶふかげ すしゅせつど こうみょうしっしょう
3
諸仏の世界は、また計るべからずとも、この無数の刹土を、光明は悉く照らすなり。
4
わたしは一人の仏の世界をも見渡せないでいるというのに、仏たちは数限りなくいまして、そのみ仏の国々を余すところなく、真如の智慧の、光明が照らしていて明るい。わたしはそこを行き行きて、行き行く。諸仏に遇って、諸仏の教えを聞いて、導かれて、行き行く。
3
8時半。汗が、被っている帽子の中で、つるつるの頭蓋骨から噴き出ている。大粒の玉の汗だ。背中を汗が流れ落ちる。それほど気温が上がっているとは思えないのだが。生きて、畑に出て、嬉しがっている己の姿に、興奮を覚えているのか。そうだとしても、至極自然。
1
まもなく7時。朝の光が届けられる。わたしにも届けられる。嬉しい。
2
そこから外に出た。油粕を畑の野菜たちの根元に施肥して回った。油粕をバケツに容れて、掴んで、ぱらりぱらりと撒いて進んだ。近所の方のお奨めに従って。油粕は果実を甘くおいしくしてくれるらしい。油粕はさらりさらりとしていて、指の間から、乾いた砂のように、零れて行く。乾燥していていい匂いがする。西瓜、瓜、胡瓜、茄子、ズッキーニたちが、おいしいご馳走によろこんでいる。
8
ふふふふ、うふふ、ふふ。笑いがこぼれそう。口元からこぼれそう。
どうして?
いま、いいことを思っているから。あることを思っているから。あることの中に、或る人がお入りになる。
1
百千億万 無量大聖 数如恒沙 供養一切 大無量寿経「讃仏偈」より
2
ひゃくせんおくまん むりょうだいしょう すうにょごうじゃ くよういっさい
3
百千億万の 無量の 大聖 数は恒砂(ごうじゃ=ガンジス河の砂)の如し 一切を供養す
4
百千億万の 無量の 大聖のみほとけがこの世界にはおいでになります。その数はガンジス河の砂の数ほどでございます。わたしはその無量のみほとけを供養するこころでいっぱいになっています。
5
無量というのは量単位では図りきれないということ。無限ということ。百千億万の数が当て嵌まらない。大聖のみほとけはそれほどにここにいらっしゃるのである。供養はお仕えをするということか。讃歎讃仏するということか。
6
ここで、「わたし」となっているのは阿弥陀仏が菩薩として修行をなさっていたころの「わたし」です。わたしは成仏の誓いを立てています。そのわたしを聞いていてくださっているのは、世自在王仏というみほとけです。
7
はい、わたしも、そうして仏になって行くのでございます。人を仏にして行くのが仏さまのお仕事です。わたしを仏にしようとなさっている仏たちが百も千も億も億万もいらっしゃいます。そういう仏たちを見て、わたしは道を歩んで行きます。
6
今日は熊本県北部の温泉に行く。泊まって来る。ここの温泉はうっすら硫黄の臭いがたちこめる。わたしはこの臭いに惹かれる白い蝶。老いた蝶。オスでもメスでもなくなった、軽々とした蝶。羽だけがやたらでかい。
5
なぜだろうねえ。答えもいらない。すっと入ってすっと出て来る。風景の中へすっと入って、同化して、そしてすっと出て来る。風景の中に赤いダリアが咲いている。風がないので、彼女はすっくと立ち上がっている。ゆらりともしない。ここは庭の片隅。午前6時を回る。拒まない風景。この偏屈のわたしを拒まないダリア。
1
おこそとのふむふ。文字を拾ってつなげている。するとそこに見慣れない異人様が立ち上がる。
2
嫌だ。幼児のように、嫌だ嫌だをする。へんてこりんな老人。加わらない。加わりたくないものには加わらない。わがままな我を通す。わがままして我を通すのはいいことではない。いいことではないのに、それでも。嫌だを言う。<ふん>をしたら、<ふん>をされる。<ぷん>をしたら<ぷん>を返される。
3
人様の気に入られるようにするには、己を曲げねばならない。丸い器の人様には四角は受容されない。じゃ、丸くなるか。人様の目に止まるようにするには、人様流の流儀にしなければならない。そうすると、粘土細工の己の粘土を作り替えることになる。いびつになる。ますます、いびつになる。<いびつ>が、気に入って貰えるはずもない。捨て置く。
4
風景の中に早朝のダリアが赤く咲いている。そこへわたしも入って行く。すっと入って行く。ぎくしゃくしない。入って行けるのはなぜか。なぜだろうねえ。