「酒を酌みて裵廸(はいてき)に与う」
王維
酒を酌みて君に与う 君自ら寛うせよ
人情の翻覆は波瀾に似たり
白首の相知も猶 剣を按じ
朱門の先達 弾冠を笑う
草色 全く細雨を経て潤い
花枝 動かんと欲して 春風 寒し
世事 浮雲の如し 何ぞ問うに足らん
如かず 高臥して且つ 餐を加えんには
*
酒を酌んであげますから、まあまあ少しゆったりとしたらよかろう。
当今、人情の薄さは、海の波のように反覆を繰り返すようなもの。
旧知の間柄でも剣を取って戦う始末。
豪華な家に住む者も、冠の塵を払って来客をあざ笑う有様。
自然界の雑草のように我等は細い雨に濡れているばかり。
牡丹の花が開こうとしているのに、つれなくも春風が冷たいなあ。
世の中は浮雲。てんで話にもならぬ。
だから、此処では枕を高くして安らい、君と一緒に、うまいものでも喰うとしようではないか。
*
裵廸は王維の友人。王維を訪ねて来てくれたのだろう。そこで一杯となったようだ。互いにぐちゃぐちゃ世の中の不満をぶちまけて。いや、ぶちまけたようにして、そこを遙かに凌駕して、高枕して、安んじて。
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ときどき仏教詩人の王維の詩に戻って来る。そして賛同する。それからしばし老荘の隠者にでもなった気分になる。
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