第106回 2015年10月27日 「柔らか!丈夫!豚革 変幻自在~東京 墨田の皮革製品~」リサーチャー: 野村佑香
番組内容
革なのに洗える!布のように柔らか!と今人気急上昇中のトートバッグがある。実はこれ、東京・墨田で生まれた豚革製品だ。墨田は豚革の一大産地。かつては牛革の代用品的存在だったが、近年、高度な技術を駆使して、コンパクトな三つ折財布など魅力的な製品を次々に誕生させている。革なのになぜ洗っても大丈夫なのか?柔らかく、しかも丈夫なものにするにはどうするのか?野村佑香が、知られざる豚革の世界を徹底リサーチする。
*https://www.nhk.or.jp/archives/chronicle/detail/?crnid=A201510271930001301000 より
ものづくりのまちとして知られている東京・墨田区は「豚革(ピッグスエード)」の一大産地です。
豚革の国内シェア約90%を担います。
墨田区は、関東近郊に養豚場が多かったことから、墨田区のなめし工場に豚の皮が集まりました。
明治末期から豚皮の生産が始まり、国内外で高く評価され、東京を代表する皮革素材となっています。
かつて「豚革」は「牛革」の代用品的存在でした。
第二次世界大戦末期、牛革が不足し軍靴に豚革が使われるようになったのがきっかけで、墨田では豚革作りが盛んになりました。
戦後も、豚の皮は3つの毛穴が裏まで貫通していて、「吸水性」「水の放出」「乾燥性」に優れていることから、靴やカバンの裏地に使われたり、ランドセルやカメラバッグなどにも使われ、海外でも認められるようになりました。
近年は高度な技術を駆使して、魅力的な製品を次々に誕生させています。
革なのに、洗え、布のように柔らかで、しかも丈夫です!
世界的に見ると、豚の皮は食肉と一緒にして流通するため素材として扱われませんが、日本では豚の皮は副産物として“革”へと加工する流通するサステナブルなシステムが構築されているので、輸入中心の他の皮革製品の原皮とは異なり、純国産で賄うことが出来るのです。
1.ウォッシャブルレザーのトートバッグ(「トウキョウレザーファクトリー」皮革加工職人・加藤雅信さん)
革製のバッグには、「重そう」「固そう」「あまり容量が入らなくて使いづらそう」といったイメージがありますが、「TOKYO LEATHER FACTORYトウキョウレザーファクトリー」は、そんなイメージを覆す国産の豚革(ピッグスエード)を使用したバッグを作りました。
豚革のトートバッグを企画したのは、皮革加工職人・加藤雅信さんです。
こちらのバッグの最大の特徴は、特殊な染料や油を使って加工が施すことによって、ざぶざぶ「洗うことが出来る」ということ。
元々は洋服のパーツとして使用した時に洗濯出来るようにと開発された革なので、汚れた時は、市販の中性洗剤で気兼ねなく洗うことが
出来るのです。
雨の日にも安心して持ち歩けるのも嬉しいですね。
そして、厚みはわずか0.6㎜、重さは約310gとりんご1個分と、まるで布製のバッグのように「軽量」です。「収納力」もあります。
また、豚革は他の動物の革と違い、毛穴が表から裏まで貫通しているため通気性が良く、カビが発生しにくいのも嬉しいポイントです。
東京都立皮革技術センターの加藤憲二さんと皮革工場を訪ね、なめし職人の石居邦幸さんに皮革作りを見せていただきました。
まず「タイコ」と呼ばれる木製のドラムに湯を張ります。
50℃の温度を保つことが重要だそうです。
その後、特殊な染料とオイル、それから植物から採れた天然の「合成タンニン」を投入します。
天然の「合成タンニン」のおかげで、染料の作用を抑え、均一に染めることが出来ます。
そして洗える秘密は「アクリル系油脂」にあります。
またオイルは、革を柔らかくしてくれます。
TOKYO LEATHER FACTORYトウキョウレザーファクトリー 東京都墨田区京島1-8-8
2.工房ショップ「革倶楽」
革工房「革倶楽」(かわくら)は、刀鍛冶を祖先に持つ高橋康樹さんの店舗併設の自社工房です。
革の経年変化を楽しめるデザインや素材にこだわる、飽きのこないシンプルなデザインのブランド「GRACE JAPAN」とちょいワル系におすすめの「CARPENTERSMITH」のブランドを展開しています。
こちらで扱う革は、牛、ヤギ、ヒツジ、サメ・・・に、墨田区産の「ピッグスキン(豚革)」です。
墨田区産の豚革で作った「コンパクトな三つ折財布」は、名刺入れほどのサイズでありながら、三つ折で小銭や定期も入る人気のイッピンです。
この財布は、様々な技術者達が結集して出来たものです。
豚の革を削って厚みを揃えるシェービング職人・牧野利広さんは薄皮のスペシャリストです。
「天然皮革」は、部位や産地によって厚みは違うので、染色する前に、シェービングマシンで革の肉面を削って、一定の厚さにする「シェービング」という作業を行います。
牧野さんはその日の革の状態を見て、0.01㎜の調整をし、希望の厚みに整えてくれます。
厚さを調べると厚さは全て1㎜という正確さでした。
革倶楽 東京都墨田区緑1-24-2
3.革の鞣し(「山口産業」なめし職人・山口明宏さん)
最盛期は墨田区に100軒あったなめし業者、タンナーも今はわずか5軒。
「山口産業」のなめし職人・山口明宏さんは、豚革(ピッグスキン)を「植物タンニン鞣し」によって、豚革を製造しています。
「鞣し」(なめし)とは、硬くて伸びにくい動物の皮を、柔らかくしなやかな「革」にする技術のことです。
化学薬品を用いて鞣すことを「クロム鞣し」、植物の渋(しぶ)に含まれるタンニンン鞣すことを「植物タンニン鞣し」と言います。
「クロム鞣し」の技術は、戦中タンニンの輸入を止められたドイツが開発し、場合によっては100年以上と、長く品質を保つことが出来ることから、これまで動物の硬い皮を鞣すには、重金属系薬品の「クロム」を使うのが一般的でした。
ただ、鞣す工程や廃棄時に、有害物質が出るなどの問題がありました。
「山口産業」でも、以前は「クロム鞣し」も一部行っていましたが、今では「クロム鞣し」は完全に止めて、全て自然由来の「植物タンニン鞣し」に切り替え、柔らかく、しなやかで、発色の良い革にする加工技術を実現させました。
今では、国内外の一流ブランドから高い評価を受けています。
「山口産業」のなめし職人・山口明宏さんは、南アフリカで植林されているミモザアカシアの樹皮に含まれるタンニンで皮をなめすと丈夫になるとおっしゃいます。
タンナー工場に入ると、木製ドラム「タイコ」がいくつも並んでいます。
原皮の水洗いや石灰漬け・脱毛処理など、それぞれの工程で、作業目的に応じでサイズや容量が異なる専用の「タイコ」が活躍します。
原皮はまず硫化ソーダに浸けて脱毛します。
因みに、原料皮は食肉加工所から仕入れたもので、全て食肉文化の副産物です。
タンニン濃度の薄いものから濃いものへと「タイコ」を替えながら皮に浸透させていきます。
皮の繊維にタンニンが入り込んで丈夫になります。
「タンニンなめし」では、大量のタンニン剤で一杯にした「ピット」と言われる水槽に皮を漬け込み、タンニンを浸透させさせますが、
「山口産業」では、それでは皮は固くなってしまうということで「タイコ」による方法を採用しています。
鞣し終わった革は、染色されて、靴の(ライニング)裏地やソファ、バッグなどの革材料になります。
4.Selieu(セリュ)の豚革のアクセサリー
墨田の皮革製品で、現在、スリッパ、クラッチバッグ、ブックカバー、ピアスなど様々な製品が作られています。
皮が薄くて柔らかい豚革に魅せられたジュエリーデザイナーの田口朋子さんは、平成24(2012)年に「Selieu(セリュ)」をスタートさせ、豚革をメインに使用したジュエリーを展開しています。
Selieuのアイコニックモチーフ「花」を使った可憐なジュエリーは革製品とは思えない繊細な素材感、デザインが人気です。
現在はカラフルな天然石やパールなどを組み合わせて更にバージョンアップしています。
田口さんは豚革の世界観を広げていきたいとおっしゃていました。
Selieu(セリュ) 東京都 世田谷区玉川4-4-6#109
*https://omotedana.hatenablog.com/entry/Ippin/Tokyo-Sumida/PigSkin より