9月中旬にこの作品の上巻を手に取り、今月の月初に下巻を読み終えた。きっかけは貴婦人と一角獣展を見て改めて中世ってなんだろう?と思ったことであった。フランスの中世に関する本を手にとってもよかったのかもしれないが、世界史をやっていない私は7世紀から15世紀の大まかな年表も頭の中にないのである。それならば、まずは神聖ローマ帝国と7世紀から台頭してきたイスラム教とイスラムの国の覇権争いについて、「ローマ人の物語」の著者の視点から書いた本を読んでみようと思ったのだ。
西ローマ帝国亡き後の地中海世界での覇権争いについて触れたのが本書であるが、上巻を読んでいる最中に、作品の評価は毀誉褒貶激しいものだろうと思った。あたかも海賊行為が中世イスラム世界の生業で、イスラム世界の食料や労働力はすべてキリスト教国の海岸沿いに住む無名の人々から奪っていたかのような印象を受けてしまい、地中海の覇権あらそいを中立の視点で描いているとは私の目から見ても言いがたい。
ただ、イスラム世界であれ中世ヨーロッパの諸侯であれ、同じ宗教と信仰していながら、結局は自国内の権力争いや国益ともいう自己中心主義から脱却できず、いざというときになっても逡巡しなかなか団結しない様子の描き方はさすがといっていい。また、本当に体を張って最前線で相手と対峙していた騎士団や、周辺諸国から裏切り者扱いされても実質的に宗教を超えた共存を実現させ一時でも平和をもたらしたシチリア王、いくら宗教的に対立していようが他国あってのものだねを標榜するヴェネツィアに関する記述から読める、塩野氏が強調したいところは私も共感できた。やはり、本来なら、フリードリヒ二世みたいな人物こそが、キリスト教・イスラム教共通の聖人として崇められてもいいはずだし、経済という見地に立てば宗教は宗教、ビジネスはビジネスという割り切りがどうしても必要で、ビジネスの相手に対する情報収集とその情報を生かす力こそ国が生き残るための重要なファクターであるのは否定できないだろう。
ところで、作品に出てきた「無名の人々」の中の一人に、私の好きな『ドン・キホーテ』を書いたセルバンテスのことも触れられていた。たしかにセルバンテスの作品や彼の伝記には、中世の地中海世界での過酷な現実が描かれてあったが、今ならその内容の深さと重さが少しは理解できるように思う。
また、作品には、私が過去に何も知らずにローマで撮っていた写真と関連する事項がいくつかあった。いずれまた紹介したい。
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