ロトンド
この円形空間の真ん中には、開業当時メルクリウスの彫像が置かれていたそうである。ギリシア神話の商売のアレゴリーをロトンドの歩床の真ん中に置いていたとは、さすがというべきか。
ギャルリ・ヴィヴィエンヌは公証人組合の理事長をつとめていたマルショーという人物が、パレ・ロワイヤルを通り抜けた人が姿を現すプチ=シャン通りとヴィヴィエンヌ通りを結ぶパサージュを造れば、人気沸騰は確実と見込んで、ローマ賞の建築家ドゥラノワに設計を依頼してつくられた。
これまでパサージュに人が押し寄せる要因として「盛り場」への道の要素やパサージュ自体が盛り場となる事例とよく紹介してきたが、他にも知事オースマンのパリ大改造の前のパリが中世以降自然発生的な発展をしてきたせいで、人々が目的地に着くまでに通りを大回りしなければたどり着けなかった不便さを、歩行者専用のショートカット路をつくることで解消したことも加えねばならない。(余談だが、1823年当時の知事シャブロルは「(パリに)適切に作られた有用な歩道がない」ことを嘆いている。普段と段違いに気持ちよく歩けるパサージュに足を運びたくなるのは想像に難くない)
モザイク工事業者G.FACCHINA とある
紹介し忘れていたが、モザイク工事業者の名が歩廊に。
小説の登場人物が住む!?
時代設定がパサージュ建築の繚乱期と重なっている文芸作品を書いた作家はバルザックやユゴー、ボードレール、フロベール、ゾラなどが挙げられるだろうか。
私はこの4作家のうち、バルザックとユゴーとフロベールの作品、それも代表作しか読んでいないが、19世紀のパリやフランスのことを文芸からアプローチして現地を楽しもうとするならば、やはりバルザックの大構想「人間喜劇」の主要作品をある程度読み込んでからのほうが俄然楽しくなるのではと今になって思うのだ。(かなり前「若き日のドストエフスキーが作家を志す上で影響を及ぼしたバルザック!」と思い、バルザック作品を読もうとしたが、未だ4作品目を手がけてないでいる(笑))
↑の画像はギャルリ・ヴィヴィエンヌの長方形歩廊の13番地だけれども、この階段の上の住居にはバルザックの『ゴジオ爺さん』のヴォートランや、ユゴーの『レ・ミゼラブル』のジャン・ヴァルジャンのモデルとなった怪盗ヴィドックが住んでいた。
ヴォートランもジャン・ヴァルジャンも19世紀フランス文学には欠くことのできない名キャラだろう。両キャラともに私の中では仏文の最強キャラの部類に入る。パサージュはタイムトンネルという機能だけでなく、虚構と現実とがごちゃごちゃになるおもしろい体験を与える機能も持っているのだ。
アルカード式屋根をもつ長方形の歩廊
アルカード(アーケード)という言葉はパサージュのプロトタイプとされるギャルリ・ド・ボワのことを触れたときに紹介したが、木造のギャルリ・ド・ボワではどのくらいガラスが用いることができたのだろうかと思ってしまう。
ギャルリ・ヴィヴィエンヌで撮ったカメラの画像を見ると、お腹も空いてきてだんだんカメラの構え方が雑になってきているように思う。本当ならゆっくり歩きたいところだったが、昼食も摂りたい、午後にルーヴル美術館にも行きたい、など、気持ちが散漫になっているのが表れているかもしれない(笑)。