遠山茂樹 著『明治維新』(岩波文庫)読了。
文庫で400ページも無い本だが、読了まで三ヶ月以上かかった。それでもなお、丁寧に読めたかどうかは分からないものの、とにかく頭を使わされた本は初めてのような気がする。ついつい幕末を「自身の信念のもと駆け抜け若死にした志士」の視点や後世の創作から語りがたるような私のような者にとっては明治維新を膨大な史料から冷徹に読み解いた本書は辛かった。
しかし、明治維新の実態として封建制度の絶対主義を維持していたい人たちの天皇の奪い合いであり、自由民権運動を声高にあげたのは明治政府に食い込めなかった人たちの不満でありブルジョア的近代市民階級を誕生させるような活動には至らなかった現実であったり、明治政府の掲げる自由・平等は啓蒙専制主義的でいわば政府が恩恵として与える自由(下からの自由を抑圧するための上からの自由)であったことなど、要点をまとめた洗練された文章でぴちっと書かれているのを読むと、学校で習う程度の明治維新の不可思議さから生じるもやもやが腑に落ちた。明治維新はやはり古代中国の「詩経」にある「周は旧邦なりといえども、その命、維れ新たなり」の範疇を出ないものだったことがよく分かる。
ここまで明治維新の全体像を整然と語った本に接したことで、これから先「英雄史観」的な本やドラマに出会うことはあっても、それらに対し少なくとも冷静にはなれそうなので非常にありがたい読書になった。また歴史を研究する人々、日本近代史研究を志す人々にとって遠山氏の『明治維新』は必読の書で高い山で有り続けていることであろうことも思った。この書を越えるぐらいの研究成果が出はじめるようになって久しいのかもしれないが遠山氏の「古典」に取って代わるようなトータルに論じた明治維新論を勧めてくれた人は今のところ私の周囲にはいない。
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