最近は読後に少し気持ちが暗くなる本が続いたように思うが、今回は心が熱くなる本を読んだ。フィリップ・モウルド著『眠れる名画-スリーパーを競り落とせ!-』(文藝春秋)である。
まれに千円で引き取られたような美術品が転売を繰り返すうちに、過去の巨匠の作品であることが分かり、最終的に数億もの値がついたことで、メディアをにぎわす出来事がある。この本は二束三文でオークションに出される薄汚れた絵が、実は歴史上知られた画家の作品であることを自ら突き止め、安い値段で競り落とし、その絵画の数奇な運命を歴史と人間模様から語っている本なのだ。
絵?、有名画家の作品の何がいいの?、絵の転売ゲームでぼろもうけする人たちの話でしょ?、絵画の市場システムがないと成り立たないでしょ?、とか思う人もいるだろうし、その気持ちも時として分からなくもないが、しかしこの世に知られていない名画を見つけるために世界中を旅して作品を見定め、ライバル達と日々戦う姿は真摯である。
この本にはいろいろなことが書いてあるが、原形をとどめていないのに一目見た瞬間に絵画に魅せられる時の、直感以外説明がつかないというところはとても神秘的である。またこの直感に自ら疑いをかけて、アカデミックな観点から「まさかこんなところに有名画家の作品があるはずない」と自分を納得させたことでスリーパーを見逃してしまい、後悔する話も読むと自分のことのように残念な気持ちになったりする。
どの業界にしろ、アカデミックな知識を吸収し、旺盛な行動力を発揮し、あらゆる人生訓・ことわざなどを自覚・自省してそれを生かすことは大切だが、この本はどんなことであれ謙虚に学ぶことの大切さを教えてくれている。美術が大好きな方、オークションの舞台裏を知りたいと思う方、そして何のためにアカデミックな学問が必要なのかを知りたい方におすすめの本である。
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