下流社会 新たな階層集団の出現光文社このアイテムの詳細を見る |
ちょっと前に話題になった本。
読んだのは2ヶ月くらい前だけど、まだレビューを書いてなかったのでエントリしておく。
格差社会については今様々なところで盛んに論じられているが、この本が関心を寄せているのは経済的な格差、経済的な「下流」ではなく、人生への意欲が低い人たちの増加についてである。
「下流」とは、単に所得が低いということではない。コミュニケーション能力、生活能力、働く意欲、学ぶ意欲、消費意欲、つまり総じて人生への意欲が低いのである。その結果として所得が上がらず、未婚のままである確率も高い。そして彼らの中には、だらだら歩き、だらだら生きていく者も少なくない。その方が楽だからだ。
(「はじめに」より引用)
どうして世の中にそういう人間が増えてしまったのか、様々な意識調査結果をベースに推論と分析が展開される。
日本がまだ貧しかった頃から高度成長する過程を幼少時代に経験した前世代と異なり、少年期から豊かな消費生活を経験した世代にとっては、年齢を重ねるごとに消費生活の水準が落ちていくとの不安があり、社会に出ることが「自由に使える時間と金の減少」としか感じられない、との推論。
団塊世代で階層意識が高い男性には、自分らしさ志向、自己実現志向が強いという傾向がある。彼らが若い頃から発し続けてきた「自分らしくあれ」というメッセージがここ数十年かけて社会的風潮となり価値観として浸透したことで、「好きなことだけしたい」とか「嫌いな仕事はしたくない」という若者を増加させ、結果、低所得の若者の増加を助長した、との分析。
このあたりはかなり納得的であり、興味深い。
そして「下流」の親に育てられた子供は「下流」になるべくして再生産される。そういった階層の固定化に筆者は警鐘を鳴らす。
警鐘は鳴らすのだが、じゃあどうすればよいのかについての提言はほとんど為されない。
分析だけで終わってしまっている点が物足りなくはあるが、現代の日本社会で起きている現象をかなり的確に整理している点ではなかなか面白い本だと思う。