残虐記 (新潮文庫 き 21-5)桐野 夏生新潮社このアイテムの詳細を見る |
少女誘拐監禁事件をモチーフにした桐野夏生の小説。
主人公は女性小説家で、小学生の頃に誘拐され一年余りにわたって監禁されるという事件の被害者、という設定。
事件から20年以上経ったある日突然、刑務所を出所した加害者男性から手紙が届き、小説家は事件のあらましを語る「残虐記」というタイトルの小説を残して失踪してしまう。
誘拐監禁事件というテーマ自体ワイドショー的な興味をそそるのに十分なものですが、それ以上に、小説としての構成が非常に巧みで、読んでいて”真実”とは何なのか、なんだか頭を揺さぶられるような感じになってきます。
事件がどのようなものだったのか、事実の経過は「残虐記」という小説内小説の中で語られます。
やがて主人公は事件の傷跡に苦しみながら成長し、高校生の時に小説を発表して大反響を呼ぶことになるんですが、そのデビュー小説は、主人公が想像に想像を重ねた事件の”真相”を描いたものでもあるのです。
前半で語られる「事実」と、想像により組み立てられた「真相」はまったく異なる内容になっており、いったい何が「真実」なのか混乱してきます。
でもよく考えると、これらはすべて桐野夏生作による「残虐記」という小説の中の話、つまりそもそもフィクションなんですよね。
こうやって、構成の妙と圧倒的な筆力を見せつけられると、なんだかフィクションが独り歩きしてリアリティを帯びてくるような気にさせられます。
小説の中でなんども強調される「想像」の持つ力を痛感させられる、面白い小説でした。