雪沼とその周辺 (新潮文庫 ほ 16-2)堀江 敏幸新潮社このアイテムの詳細を見る |
以前に読んだ「いつか王子駅で」がけっこう良かったので、新たに文庫化された堀江敏幸の小説を読んでみました。
本作は、王子のような実在の場所ではなく、「雪沼」という架空の場所とその周辺の町に暮らす人々を描いた7編の短編集。
7編はいずれも、不器用ながら誠実に生きている人々を主人公とし、彼ら彼女らが生きてきた人生を振り返りながら、今の日常の一こまが切り取られます。
登場人物たちの多くは、生まれも育ちもずっと雪沼というよりも、他の土地からふとした縁でこの地にやって来て住みついたり、一度都会に出ながら戻って来たりしながら雪沼周辺で今の生活を送っています。
個人的には、ただ”過去”を語るだけでなく、現在進行形で進んでいるエピソードとのバランスがうまく取られている「スタンス・ドット」「河岸段丘」の2編が気に入りました。
ややケレン味が無さ過ぎという感はありますが、登場人物たちに対する作者のまなざしがとにかく優しいので、「いつか王子駅で」同様読後感は清涼です。