排出権取引とは何か (PHPビジネス新書)北村 慶PHP研究所このアイテムの詳細を見る |
排出権取引の入門書。
読み易くて分かり易い。
一方で、深みがなくって物足りなさを感じてしまうのも確か。
まあ排出権取引自体始まったばかりの新しい概念であり、深く論じるだけの材料がまだ揃っていないということもあるのだとは思いますが。
この本でも解説されていますが、国別に排出枠を割り当てる京都議定書の排出権と、企業が排出枠を売買するEUの排出権(取引)とを同列に扱うことはできない。
自分も、排出権に関する報道を眺めていても、どうも混乱があるような気がしてましたが、そのあたりが頭の中でクリアになったのが、この本を読んでの一番の収穫かな。
排出権取引は、エネルギー問題に、権利売買という「経済」的手法を持ち込んだものですが、国別でも企業別でも、排出枠の最初の割り当てをどのように行なうかという点は、きわめて「政治」的な問題なわけです。
京都議定書の国別排出枠割り当てがそもそもEUや新興国に有利で、日本は損しているというのはよく指摘される話です。
この本においても、そのあたりの問題点は指摘されていますが、わりとあっさり看過されてしまっている。
プロフィールによれば、著者は「グローバル金融機関勤務」だそうなので、「どうあるべきか」というアカデミズムよりも、「どうするべきか」というプラグマティズムのほうに関心があるということでしょうか。
それから、排出権取引が金融商品として新たな投資対象たりうるか、という論点。
これも本の中で指摘されていますが、排出権という概念自体が人為的に設定された擬制であることを考えると、それが果たして永続的な価値を持つ資産たりうるのか疑問な気がします。
ちなみに、この本は、地球温暖化が進んでいること、および、温室効果ガスがその原因であることについては全く疑問視せず、所与の前提として書かれています。
この論点については、他の「温暖化懐疑本」を読んでみたいと思います。