ねたあとに長嶋 有朝日新聞出版このアイテムの詳細を見る |
同じ長嶋有の「ジャージの二人」でも古い山荘が物語の舞台となっていましたが、その夏の間の山荘暮らしのみに特化して描き込んだ小説です。
300ページを超える長編ですが、何のドラマも盛り込まれていません。
シリアスな要素も全くなし。
山荘のホストであるナガヤマ家の親子と、その友人である職業も年齢もバラバラの人々が、布団も洗濯物も乾かず、虫だらけで、鼠も住み、五右衛門風呂のある古い山荘で、束の間の夏休みをまったりと過ごす様子をただただ描いていきます。
ナガヤマ家の長男で小説家であるコモローの友人である久呂子が語り手となっていますが、視点は山荘とその周囲という範囲から一歩も出ていきません。
しかも昼間の営みはほとんど省略されていて、夕食から深夜遅くまでの間、毎夜繰り広げられる「遊び」と、古い山荘独特の生活ルールと、登場人物の間で交わされるユルイ会話がメインになっています。
この「遊び」というのが、この小説の最大の見せ場。
中学生が休み時間や修学旅行の宿泊先でやるような、紙とエンピツがあればできてしまうチープでオリジナルな遊び。
これを大の大人がワクワクしながら時間をかけて熱中する様が、ときにイラストも交えたルール解説とともに詳細に描写されます。
思わず自分でもやってみたくなってしまうマニアックさ。
読んでいて、ついニヤついてしまう自分に気付きます。
なんだか学生時代のサークルの合宿の雰囲気とか思い出してしまうユルさ。
こういう芸風の小説は好みというわけではないんだけど、不景気で世知辛い世の中、年度末の繁忙期に現実逃避するにはもってこいと言えるかもしれません。