ひそやかな花園 | |
角田 光代 | |
毎日新聞社 |
登場人物たちが共有した幼き日の「キャンプ」の記憶。
それと同種の記憶が自分にもあります。
広い庭と家でのパーティ、大勢の大人たち、学校の友達でも親戚でもない同世代の子供たち。
おそらく父親か母親の友人たちの集まりに連れていかれたんだろうけど、場所がどこだったのか、その場にいたのが誰だったのか、表現することができないので親に訊きたくても訊きようもない。
もちろんこの小説の「キャンプ」のようないわくありげなものではなかったと思いますが、この種の記憶って妙に深い印象として心に刻まれるもの。
そんな誰しもが持っていそうな既視感を刺激するシチュエーション構築は非常に魅惑的であります。
物語は中盤で「キャンプ」がどのような集まりだったのか、その真相を明かし、再会した大人になったかつての子供たちがそれぞれに抱く心傷を整理し癒していく過程を丁寧に追っていきます。
この部分も興味深いといえばその通りなんですが、彼ら彼女らの運命があまりに特殊であるがゆえに何となくピンとこないものが残ったのは正直なところです。
それはそれでいいのかもしれないけど、前半部の子供時代の記憶が極めて既視性が高かっただけに、特殊性に流れた後半部とのバランスがよくないように感じました。