オスマン帝国の解体 文化世界と国民国家 (講談社学術文庫) | |
鈴木 董 | |
講談社 |
Kindle版にて読了。
20世紀から現在に至るまで民族紛争・宗教紛争の絶えない地域である中東、バルカン。
これらの地域はいずれも、13世紀末から600年以上にわたり君臨したイスラム大帝国、オスマン帝国の広大な版図の一部であった。
オスマン帝国は「多様性の帝国」であった。
その広大な版図においては、多様な宗教、宗派、民族に属する人々が、比較的平穏に共存していた。
イスラム帝国でありながら、一部のキリスト教徒やユダヤ教徒も、不平等はありながらも緩やかに共存していた。
また、交易の利に支えられたオスマン帝国は「開かれた帝国」でもあった。
そんな長い「パクス・オトマニカ(オスマンの平和)」が崩壊し始めたのはほんの200年前。
近代西欧で生まれたナショナリズムの大波が「西洋の衝撃」としてオスマン帝国を直撃し、まずはバルカン半島のキリスト教諸民族が、続いて中東のムスリム諸民族がネーション・ステートとしての自立を目指して立ち上ががる。
オスマンの平和を支えたアイデンティティと共存システムは破壊され、そのうねりの中で帝国は次第に崩壊していく。
そして、バルカンは第一次世界大戦の引き鉄となり、20世紀終盤には凄惨な内戦で多くの犠牲者を出す。
一方、中東は西欧植民地主義により恣意的に分断され、それが現代に至っても解決の困難なこの地域の複雑性の根本を覆っている。
以上が、本書で語られる史観の提要である。
なかなか馴染みにくい地域の話だが、特にオスマン帝国崩壊の過程が詳らかに解説されるあたりは興味深い。
では、現代も未解決のままのこれら地政学的課題をどう解決すればよいのかという観点でのアイデアは本書では語られない。
まさか時間を巻き戻してオスマン帝国を再興することがソリューションにはなり得ないだろうし。
ただ、今のように宗教対立ばかりにフォーカスを当ててしまうと解決はさらに遠くなるということだけは言えそうだ。