吉村昭が関東大震災を描いたルポルタージュ。
構成は大きく前後半に別れる。
前半は、地震による損害を克明に描く。
関東大震災では地震による圧死などの直接の被害者よりも、地震に続いて発生した火災による死傷者の方が圧倒的に多かったというのはよく知られた話。
この本でも、本所・浅草などの下町地域での猛火による被害状況が、数少ない生存者の証言を交えながら描かれる。
特に3万8千人もの死者が出たという、本所・陸軍被服廠跡(現・横網公園/東京都慰霊堂)における業火被害の描写はまさに地獄の様。
自分には認識が無かったのだが、この甚大な被害をもたらした大きな原因の一つは火災により勢いを増した大旋風だった。
猛烈な上昇気流による旋風が、折からの前線通過の影響も受けて異常な規模となって避難した人々を襲ったという。
人々が、大旋風に巻き上げられ至る所に叩きつけられ、猛火に焼き尽くされる様子は筆舌に尽くしがたく、もし自分の家族や友人のこんな姿を見ることになったら・・・と恐ろしい想像をしてしまう。
後半は、震災避難者の間に発生した異常な流言、そして震災の混乱に乗じて発生した大杉栄事件について語られる。
朝鮮人襲来の流言により発生した残酷な事件の数々について繰り返し繰り返し事実が書き込まれているが、その信じ難い愚かしさにはウンザリして読むのを止めたくなるほど。
集団心理の恐ろしさと言ってしまえばそれで終りになってしまうが、やはり情報不足というのも大きな一因となっていたんだと思う。
非常時はもちろん通常から正確で理性的な情報を行き渡らせることが社会にとってすごく重要なことなんだと改めて思った。
阪神大震災や中越地震の被害をニュース映像で目の当たりにし、去年は首都圏でも大き目の地震があったりした。
一方でマンションやホテルの耐震強度偽装問題で大騒ぎになった。
それでも、いざ大地震が起こるまで、真剣になって備えを行なわないのが人の常。
関東大震災の教訓から学ぶところは大きく、一読の価値はある。
関東大震災でも、地盤の強固な武蔵野台地の方面での被害はかなり少なかったという。
取りあえずは、地盤だとか、避難や消防の通行を妨げる狭い道に面していないことだとか、住む場所って重要だなと思いを新たにした。
もちろん自宅にいるときに地震が起こるとは限らないのだけれど・・・