サブプライム危機を多様な側面から論じた本。
キーワードは「バブル」と「流動性」でしょうか。
第Ⅲ部で、「流動性」とは、その経済の「投資意欲」のことを指す、という考え方が紹介されています。
「意欲」とは、個々人の「心理」であり、社会全体の「風潮」のようなものでもあるのでしょう。
貨幣経済が「信用」で成り立っている以上、「意欲」は連鎖反応を起こし、上向きなときはとことん上昇し(バブル)、下がるときは一気に下降する(バブル崩壊)。
それは資本主義経済の運命(さだめ)なのだと思う。
バブルもバブル崩壊も起さない「安定した」経済が望ましいものなのか、この本は明言をしてはいません。
もしかしたらバブル無き社会にはイノベーションは生まれないのかもしれない、と。
素人の自分にも理解しやすい噛み砕いた論旨が展開され、非常に読みやすいのですが、内容的には結構専門的な議論も含んでいるのではないかと思います。
だから、読後もすべてが明解に頭に入った!という爽快感はない。
手元に置いて何度も読み返せば、かなり経済に対する理解を深められる一冊なのではないかと思います(自分は残念ながら図書館で借りたので返してしまいますが)。
印象に残った部分を、備忘のため以下メモしておきます。
・「その経済における投資収益率が成長率を上回る」という「動学的効率性の条件」が満たされない(すなわち投資収益率が成長率を下回っている)状態では、バブルが経済に寄与する。富を真正な投資に回すよりも、国債を発行して無駄遣いし、国債の償還のためまた国債を発行するといった「ねずみ講」が問題を生まないことになる。
・サブプライム危機が発生するずっと以前、2005年8月のカンザスシティ連銀主催シンポジウムにて、今まさに話題となっている、金融機関の時価評価会計の問題や、金融システムへの規制強化の問題が議論されていた。
・何が資産の「ファンダメンタルズ」なのかは誰にも知ることができない。一般的に、バブルとは資産価格がファンダメンタルズから大きく上ぶれすることである一方、バブル崩壊で資産価格が下落する局面ではファンダメンタルズに一致(収斂)するという考え方が広く認識されているが、これは「誤解」である。資産上昇の局面でファンダメンタルズから乖離するのであれば、資産下落の局面でもファンダメンタルズから乖離するはずであり、そのように対称的に考えたほうが自然だ。