そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

ユニクロ価格は「デフレ」ではない

2009-12-12 22:22:28 | Economics
今週読んだコラムの中で個人的にもっともヒットだったのは、アゴラでの池田信夫氏によるこの記事。

「ユニクロ悪玉論」の病理

きわめて歯切れよく明快にまとめられているのでぜひとも全文ご一読あれ。

「デフレ」とは一般物価水準の下落であり、相対価格の変動と混同すべきでないとの論については、ちょっと前にこのブログでも野口悠紀雄氏のコラムを採り上げました。
ユニクロに代表されるような低価格商品の浸透を「デフレ」だと誤解して金融政策を振るったところで状況が変わるはずがない。
ましてや安売りを規制しようとしたり、低価格商品を買わないよう情に訴えたりするなんて全くナンセンスな話で、同じ品質なら安い方を買うのはどう考えても合理的なわけで、それを無理矢理捻じ曲げようというのは本末転倒といわざるをえません。

一方で、上に紹介したアゴラの記事のコメント欄でのやり取りを読んだりすると、やはり考えさせられるものはあります。
池田氏や城繁幸氏の言うように、賃金水準が労働生産性に見合うまで下がるのは不可避であり、特に新興国の労働力で代替可能な製造業などの賃金に下方圧力がかかり続けるのだから、産業構造を転換して付加価値の高いサービス業へと労働力が新陳代謝していくようにすべきというのは、理屈としては全くもって正しいと思います。
が、現実的には、一億人も人口がある国で、労働者が皆が皆専門性の高い、高付加価値の労働力となることなど考えられない。
高専門性、高付加価値というのも相対的な概念なので、競争に勝つ人間がいれば負ける人間もいる。
必要なのはむしろそのような「格差社会」を「致し方ないもの」として受け容れる社会的合意形成ができるかどうかなのでしょう。
日本中のほとんどの人が豊かな生活水準を享受できた「一億総中流」の幸せな時代をふっ切ることができるかどうか。
そしてもう一つ、格差社会の敗者でも、どん底まで落ちることのないようなセーフティネットを張ること。
やはり目指すべきは「小さな政府、大きな福祉」により、皆が自立できる社会なのだと改めて思うのであります。
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非伝統的金融政策

2009-12-08 23:23:12 | Economics

本日付け日経新聞朝刊・経済教室「デフレと金融政策」の「上」は池尾和人・慶應義塾大学教授。
議論の内容は、普段アゴラなどで書かれているお馴染みのものですが、丁寧に解説されているので、以下備忘のため論旨をメモ。

・政策金利がゼロを下回れない制約に直面している場合、追加的な金融政策は「非伝統的金融政策」とならざるをえない。

・非伝統的金融政策とは、中央銀行のバランスシート自体を活用するもので、そのうち負債側にかかわるものが「量的緩和」、資産側にかかわるものが「信用緩和」である。

・準備預金残高をターゲットとしてその増加を図るのが「量的緩和」。ゼロ金利下では、超過準備の保有コストもゼロになるため、準備像に比例して必ず民間銀行の貸し出しが増えることにはならない。民間銀行の貸出機会が不足していれば、準備預金残高がただ「ブタ積み」になるに過ぎない。

・中央銀行が、短期の安全資産に代えて、リスク資産や長期国債を購入するのが「信用緩和」。リスク資産や長期国債の購入が、売却する短期国債などの額を上回ると量的緩和にもなっていることになる。そうしたバランスシート拡大が当初から意図されている長期国債の購入は、信用緩和とは呼ばず、広義に量的緩和と言っている。

・中央銀行が長期国債やリスク資産の購入量を増やせば、何らかの効果が生まれるのはほぼ間違いないが、どのような効果がどの程度生じるかは率直に言って分かっていない。ただし、物価に上昇圧力がかかるよりも株式市場や外為市場などの資産市場のほうが早く反応し、資産価格の上昇を生じさせることが一義的な効果となるとみられている。資産価格形成を政策的に強力に誘導することは無視しがたい副作用を伴う恐れがある。

・量的緩和を推進しても、貸出機会が乏しいままでは広義の貨幣量の増加も見込めない。規制改革を通じた投資機会の拡大の取り組みがない限り、追加緩和の効果は限定的となる。

・貨幣量の増大で支援されない限りデフレからの脱却はない、という命題は正しいが、金融緩和はデフレ脱却の必要条件であって十分条件ではない。十分条件を整えるためには、成長戦略が不可欠である。

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「巡礼」 橋本 治

2009-12-04 22:52:37 | Books
巡礼
橋本 治
新潮社

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ワイドショーのネタにされ野次馬をひきつけ、近隣の人々の嫌悪と憎悪の対象となっている「ゴミ屋敷」。
老人は何故「ゴミ屋敷」の主となったのか。

みるみる変わりゆく戦後の「郊外」の風景を背景に、家族、地域コミュニティ、就業の在り方など、急速な時代の変化を受け身で感じていく主人公。
少年から青年、中年と、思うに任せぬ人生を重ねていく中で、気がついたときは独りになっていた。
普通に不器用なだけだったはずの男が、「ゴミ屋敷」の主となっていく。

泣けたわけではない。
説得力を認めたたわけでもない。
ただただその克明に描写された人生に、リアルを感じさせられた。

自分にとって橋本治は、かの大河青春小説「桃尻娘」シリーズの著者として特別な存在なのです。
それまで三毛猫ホームズやトラベルミステリーばかり読んでいた自分にとって、初めて取り組んだ現代純文学、それが「桃尻娘」でした。
「桃尻娘」の登場人物たちが表現する屈折した自意識や孤独感は、当時思春期に差し掛かっていた自分は強烈なインパクトを与え、その質感は20年経った今でも印象として残っています。
そして、本当は「普通の人間」でしかない「異端者」に対する優しい眼差しは、この「巡礼」にもそのまま受け継がれているように感じました。
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「ルールの変更」

2009-12-01 23:42:06 | Economics

追加経済対策を週内に策定、デフレや円高対応(読売新聞) - goo ニュース

 政府は1日、デフレや急速な円高への対応として、追加経済対策を週内に策定する方針を閣議了解した。

 政府の方針は、「為替市場の急激な変動は、景気持ち直しの動きに悪影響を与える恐れがある」としたうえで、〈1〉経済状況の変化に適切に対応できる2009年度第2次補正予算の編成〈2〉新たな需要創出に向け、制度・規制など「ルールの変更」に積極的に取り組む〈3〉日本銀行に対し、金融面から経済の下支えを期待――の3点を掲げた。

注目したいのは、

〈2〉新たな需要創出に向け、制度・規制など「ルールの変更」に積極的に取り組む

の部分。
これまで「救う」ことと「削る」ことばかりだった鳩山政権にも、この発想が残ってたことが分かってホッとしました。

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