代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

実利と脅迫と友情と(米国とキューバ)

2006年09月27日 | 政治経済(国際)
 前のエントリーに対してオヴニル1さんから以下のようなコメントをいただきました。それに対する回答に加筆して新しいエントリーとさせていただきます。

<引用開始>
 どうやったら,キューバに国際的影響力があると解釈できるのか理解できません.
 まずもって,インド・パキスタンの和平ロードマップは両国の核実験以降に急激に進んだものです.
 理由は簡単で,両国に"核抑止力"が働いた故の結果です.具体的な時期を言えば,現首相のムシャラフが軍事クーデターを起こした99年から既に始まっているわけで,今回タマタマ,ホスト国であったキューバの名前が出てきただけです.
まさか,"友情"や"信条"が和平を実現したと思っているわけではありませんよね?国際社会で信頼を勝ち取る事が出来るパワーは"実利"のみです.
 確かに,キューバは他国に医療支援を行なっていますよ.しかし,キューバだけがやっているわけではありません,他国も同様に行なっています.
 ジャワ島沖地震,パキスタン大地震等も同様です.あたかもキューバのみが特別のように扱うのはフェアでは無いですね.アメリカ・日本・韓国・中国・その他たくさんの国は無視ですか?
 都合の良い事例のみで語るのは詭弁の一種ですよ?
ついでに言えば「非同盟国=非アメリカ」と考えるのは短絡的です.世界はそこまで分りやすく出来ていません.特に,市場経済がここまで以上発達した状況では,厳密な意味での反米国はごくごくわずかです.
<引用終わり>

 コメントありがとうございました。
 私には、どうやったら、非同盟諸国会議の議長国に「国際的影響力がない」と解釈できるのか理解できません。

>理由は簡単で,両国に"核抑止力"が働いた故の結果です.

 賛同できない見解です。
 ムシャラフの堪忍袋の尾が切れて、「これ以上米国に追従できない」と従米ポチ路線に見切りをつけたということでしょう。連衡(あるいはバンドゴワニング、強いものにポチること)ではなく合従(バランシング、強者に対抗するため中小が連合すること)の道を選択しようと、長年の宿敵インドとの和平に踏み切ったのでしょう。ムシャラフが従米路線を貫く気持ちなのであれば、よりによって最も米国を刺激するであろうキューバを仲介国に選ぶと思いますか?
 ↓この記事読みましたか?
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/news/20060922k0000e030073000c.html 

<引用開始>
 パキスタンのムシャラフ大統領が米CBSテレビに対し、01年9月の米同時多発テロ直後、対テロ戦争に協力しなければパキスタンを空爆するとアーミテージ米国務副長官(当時)が脅していたと語った。アーミテージ氏は「空爆で石器時代に戻る覚悟をしろ」などと「極めて無礼な調子」(ムシャラフ氏)で協力を迫ったという。放映に先立ち、CBS電子版が21日報じた。
<引用終わり>

↓さらに米国がパキスタンへの派兵を考えているというこの記事をお読みください。
http://www.cnn.co.jp/usa/CNN200609210005.html
 
<引用開始>
 ブッシュ米大統領は20日、CNNのウォルフ・ブリッツァー記者との単独インタビューで、アルカイダ指導者のオサマ・ビンラディン容疑者がパキスタン国内に潜伏しているとの有力情報を得た場合、捜索のためパキスタンに米軍を派遣する意向にあることを明らかにした。
 パキスタンのムシャラフ大統領は記者団に対し、米軍の受け入れを拒否する意向を示したものの、ブッシュ大統領はビンラディン容疑者を裁くため「必要な措置」を取るとの強硬姿勢を表明した。
<引用終わり>

 米国は無理難題をふっかけてパキスタンに派兵しようとして、ムシャラフを窮地に追い込んでいます。彼はもう耐えられないのでしょう。これ以上、ムシャラフがポチったら、パキスタン国内の反ムシャラフ勢力がクーデターでも起こすかもしれません。「実利」で考えてもこれ以上の従米は得策ではないのでしょう。
 パキスタン派兵は、イランを挑発するためでしょう。都合の良いときだけ、ビン・ラディンの亡霊に利用価値があるわけです。ムシャラフが言うことを聞かなければ、まさに空爆でもしそうな勢いです。

 「空爆で石器時代に戻る覚悟をしろ」なんて外道な発言をする国家が尊敬されると思いますか? 近年の米国は「実利」の提供も無視して、「脅迫」で国際関係に対処しています。まさに彼らは国際マフィアそのものです。アフガニスタンなんか「石器時代の方がまだ良い」というほどひどい状態にされてしましました。
 「空爆の脅迫」で「民主主義」なんて、本当にチャベス大統領の演説じゃないですが、「アリストテレスもびっくり」です。
 ムシャラフは、米国から加えられるこれ以上の屈辱に耐えられず、従米路線を捨てる決意をして、アーミテージの「非道」を告発したのでしょう。
 チャベスの発言は、これまで多くの途上国が言いたくても言えなかったことを代弁してくれています。だからあれほどの拍手喝采を受けるのです。
 米国は、ムシャラフ政権を汚い謀略によって転覆させるかも知れません。しかし、それは南の諸国のさらなる米国からの離反と結束を生み出すことでしょう。

>「非同盟国=非アメリカ」と考えるのは短絡的です.
 
 そのお考えこそ短絡的です。世界は臨界状態に近づいています。米国はあまりにも多くの南の人々を殺しすぎましたし、南の人々の生活を破壊しすぎました。パキスタンのような従米国家がもはや米国に見切りをつけつつあるのを見ても、もはや彼らは耐えられないのです。あとは雪崩を待つだけです。米国が、脅迫による外交路線から、親愛と道義に基づいた外交へと修正しない限り・・・・。

>キューバは他国に医療支援を行なっていますよ.しかし,キューバだけがやって
>いるわけではありません,他国も同様に行なっています.

 もちろんそうです。でもキューバは自国も貧しいのにやっているのです。しかも顔の見える援助を。日本はカネとモノは出しますがヒトはあまり・・・。
 パキスタン地震では、キューバは医師や救助チームを2260人派遣したそうです。日本はカネとモノはたくさん出しています。しかしヒトとなると、パキスタン震災の際も、救助チーム49名に医療チーム42名なのだそうです。
↓外務省のサイト参照
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/jisseki/keitai/kinkyu/pdfs/aso.pdf

 これでは、キューバの方が「顔が見える」のではないでしょうか。顔の見える援助によってヒトとヒトとが国境を越えて「友情」で結びついているところがキューバの「ソフト・パワー」だと私は申しているのです。アメリカに至っては震災を利用したカネ儲けしか考えていませんよ。スマトラ津波の後の対応などまさにそうで、インドネシア政府は心の底で非常に怒っているはずです。

 津波の後のライスの発言に関して、暗いニュースリンクさんの「津波災害は米国にとって素晴らしい機会」という記事を引用させていただきます。

<引用開始> 
 第二期を迎えるブッシュ政権は「道徳的価値観(moral values)」を重視しているという。ブッシュが選択した閣僚達は、わかりやすい形でその価値基準を世界に示そうと努力しているようだ。
 アメリカ合衆国の新国務長官となるコンドリーザ・ライスが、18日に行われた上院外交委員会の公聴会で自信タップリに語って見せた言葉を以下に引用する:

「(スマトラ沖大地震の)津波は米国政府だけでなく、アメリカ国民のハートを示すための素晴らしい機会となったことはまちがいありません。私達にとって大きな見返りをもたらすことでしょう。」("I do agree that the tsunami was a wonderful opportunity to show not just the US government, but the heart of the American people, and I think it has paid great dividends for us")

 この言葉に激怒したのが、ブッシュ大統領の二期目承認に上院でただ独り反対するなど、現在米上院で最も気骨のある女性、バーバラ・ボクサー上院議員(民主党・カリフォルニア選出)である。ボクサー議員の批判を引用する:
 「今回の津波は私達が経験する中で最悪の悲劇のひとつです。しかも被災した地域の復興には10年も費やすかもしれない被害をもたらしたのですよ。あなたの声明には失望させられました。あなたは機会を台無しにしたのだと思います」("The tsunami was one of the worst tragedies of our lifetime, And it's going to have a 10-year impact on rebuilding that area. I was very disappointed in your statement. I think you blew the opportunity.") 
<引用終わり>

 秀才のライスらしい、新古典派イデオロギーに忠実なすばらしい「実利主義」ですね。復興ビジネスを自国企業に受注させて大儲け(カネは日本に出させて)とでも考えたのでしょう。被災者たちの怒りが、バーバラ・ボクサーさんの比ではないことは言うまでもございません。

http://en.wikipedia.org/wiki/International_response_to_the_2005_Kashmir_earthquake

↑このページに昨年のパキスタン地震の後の各国の救援状況が詳しく紹介されていました。以下、キューバと米国の援助の項目を抜き出して紹介します。

 キューバは2260人の医療技術チーム(その内1400人は医者)をカシミール地域へ派遣したそうです。30の野外病院を作って20万人以上の手当てをし、1万2400人に外科手術を施し、死にかけていた数百人の命を救ったとも。野外病院はそのままパキスタン政府に引き渡されました。供与した医薬品は234.5トンとか。当時まだ両国は大使の交換もしていない関係だったのです。ムシャラフ大統領は、カストロ議長の「パキスタンの人々が苦しんでいるのに私は休んでなんかいられません」と書かれた手紙を受け取って、「支援を差し伸べるもっとも心温まる手紙だった」とメディアに語ったそうです。カストロの友情が、ムシャラフの心を動かしたと見るべきでしょう。医師という「実利」の提供は、「友情」の証です。

 一方の米国ですが、緊急援助が1億5600万ドルです(物資か現金かよく分からない)。救援内容として書かれているのは、5機のCH47チヌークと3機のUH60ブラックホーク(共に軍用ヘリコプター)、さらに1機のC17グローブマスター軍用機を派遣したとか、軍事用語ばかり登場します(まるで戦争に行ったみたいな印象です)。軍医も派遣されていますが、容易した患者のベット数はたったの100床(しかもちゃんとしたベッドは36のみで、簡易ベットが60)。手術室は2つ、施した外科手術は46回、非外科の手術は548回とのことです。米国医師による外科手術の回数はじつにキューバの270分の1にしかならないわけです。あまり「実利」も伴わない、災害につけこんだこれ見よがしの軍隊の派遣は「脅迫」の裏返しと見るべきでしょう。
 
 ちなみに米国のGDPはキューバのそれの300倍以上です。医療立国のキューバと軍事立国の米国のキャラクターの差が如実に出ていますね。どちらが喜ばれるでしょうか? ムシャラフにしてみれば、あれだけポチってきたのに、困ったときに米国から受け取る援助がキューバの足元にも及ばないのであれば、「もうやってられない!」という気持ちになるでしょう。
 詳しくは上記のサイトを見てください。原文を以下に引用しておきます。
 2005年10月のパキスタン地震後のキューバの援助と米国の援助の比較。 

<引用開始>
*Cuba – President Fidel Castro has offered, in a letter addressed to the President of Pakistan and made public by officials in Havana, to send 200 doctors to Pakistan in order to help treat the victims of the earthquake. Some 2,260 Cuban health brigadistas, more than 1,400 of them doctors, are in the area of Kashmir, where they have attended to more than 200,000 patients and saved hundreds of people in imminent danger of dying. [50] [51] [52]
More than 1,300,442 patients have been assisted (63,0592 women, 48.5%); and more than 12,406 surgical operations have been performed in 30 mobile field hospitals. [53] The fully equipped Cuban Field Hospitals will be handed over to the Pakistani government. [54] The Cuban Government has provided 234.5 tons of medicines and disposable materials, and 275.7 tons of most leading-edge equipment. More than 300 students of medicine have taken courses in the Cuban Field Hospitals. The Cuban Government has decided to offer a wide and free medicine scholarships program for 1,000 young Pakistanis from rural communities. [55]
The first Cuban medical team was in Pakistan on October 14, six days after the earthquake, the fast acceptance of the aid was a surprise due to the close relation of Pakistan and the US; the two countries have not even exchanged Ambassadors at that time. The leading Pakistani newspaper Dawn quoted President Musharraf as saying that "one of the most heart-warming letters of support" following the earthquake was from Fidel Castro. In his letter, Castro said that it was difficult for him to rest when thousands of Pakistanis were spending their days in pain, awaiting surgery. [56]

*USA - The United States has announced that it will provide an initial contribution of USD 156 million (PKR 3 billion) for emergency relief in Pakistan. The U.S. military is also providing supplies and assistance. As of November 3, the U.S. Department of Defense (DOD) has 933 personnel providing relief and reconstruction assistance in support of the Pakistan earthquake relief effort. Five CH-47 Chinook and three UH-60 Black Hawk helicopters are being moved into Pakistan immediately, and a C-17 Globemaster III military aircraft has already been assigned to bring blankets, tents and other relief supplies to the victims. The 212th Mobile Army Surgical Hospital (MASH), established October 25 in Muzaffarabad, currently has 36 Intensive Care Unit beds, 60 intermediate minimal care beds, and two operating rooms. To date the MASH has performed 46 surgeries, and treated 548 non-surgical patients. Furthermore, a 23-member logistical support group is also being dispatched from McGuire Air Force Base in New Jersey. The United States Agency for International Development has provided more than USD $41.8 million for relief work in Pakistan, including nine completed airlifts of relief supplies. The airlifts delivered a total of 45,000 blankets, 1,570 winterized tents, 6,150 rolls of plastic sheeting for approximately 30,750 families, 15,000 water containers, 17 water bladders, 2 water purification units, 10 WHO emergency health kits, and 20 concrete cutting saws. USAID has also committed funds to the UN, other international organizations and NGOs. On Wednesday, November 9, 2005, business leaders from GE, UPS, Pfizer, Xerox, and Citigroup met with President Bush at the White House to announce the launch of the South Asia Earthquake Relief Fund and website. [57] [58] [59] [60]
<引用終わり>


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4 コメント

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もっと巨大な時代転換のとき (鈴木康夫)
2006-09-27 16:23:44
 はじめまして。先日、世界の森林問題でトラックバックさせていただきました。

 

 関さんの情勢分析、このブログの趣旨に賛同いたします。もはや時代状況としては、一国の、そして政治や経済、環境に限定した視点では解決できない、社会全体の統合問題にあることが顕在化し始めていると思います。だからこそ反米(アンチパックスアメリカーナ)であるのですが、それに代わる統合様式を模索していきましょう。



 悲しいかな自前のブログのない、不器用なおっさんです。たまに"るいネット"や"なんでや驀進劇"に顔を出しています。



 今後ともよろしくお願い致します。



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鈴木康夫さま ()
2006-09-27 23:38:41
 こちらこそ先日はTBをありがとうございました。今後ともよろしくお願い申し上げます。
返信する
中南米におけるキューバの影響力 (堀@名古屋)
2006-09-29 03:06:50
関さん、ご無沙汰しています。昨年私が三ヶ月滞在していた中米においても、ハリケーンスタンの災害復興に多くのキューバ人医師が着ており、報道されていました。



最近では、中米各国から多くの医療研修生を受け入れてもいるとのこと。「我々が貧しくとも飢えないでいられるのは、日本からの移民たちが食糧のつくりかたを教えてくれたからだ」昭和天皇が亡くなった時、カストロはそのような理由から一週間の喪に服した。グアテマラ在住のキューバ人の友人リカルドからそのような話を聞きました。



ただ、あくまでカストロの意思であり、彼の意思がそのまま国家の意思足りえてしまうのは、時に負の結果にもつながる。そのような観点もあるのだと僕も思います。「援助するのはいいが、俺はもっとリッチになりたいよ」彼はそうとも言っておりました。ベネズエラしかり、以前の中国しかり。強力で個性的なリーダーは、時に反対意見を沈黙させてしまう。



もちろん、その行為自体は賞賛に値しますが、パキスタン大地震の際のキューバの対応に関しては、"独裁政権でしかできなかった"との見方も必要なのかと思います。果たしてどれだけのキューバ国民がカストロの決断を本心から支持しているのか。いつか知りたいものです。
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堀さま ()
2006-09-29 13:23:31
 いま名古屋にいたのですか。ブログもはじめて知りました。今後とも拝読させていただきます。じつはXHさんがまだ論文書けておらず、あの話は滞っています。またメールください。



>パキスタン大地震の際のキューバの対応に関して

>は、"独裁政権でしかできなかった"との見方も必要

>なのかと思います。



 災害救援に関してキューバに過度な負担が及ばないためにも、国連の機能強化が必要だと思います。とくに中米・カリブ・米国南部は、今後の地球温暖化でハリケーン被害が増える一方でしょうから。

 
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