代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

憲法70周年 「押し付け」でなかった事実が続々

2017年05月03日 | 政治経済(日本)
 本日は日本国憲法が施行されて70周年の記念日。
 先日、4月30日(日)のNHKスペシャル「憲法70年 ”平和国家”はこうして生まれた」はよかった。よく政権の目を忖度することなく製作したものだ、と驚くような内容であった。製作スタッフに敬意を表します。
 憲法9条の条文が、決してGHQの提示した原案を追認したわけではなく、衆議院で徹底的に審議され、独自のものに書き換えられていった様子がよくわかった。占領軍に言われるがままに受け身の姿勢で軍備を放棄したわけではないのだ。
 「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求」するという、当事の国民の大半の願いを反映し、積極的に国際平和の構築に関与するという主体的な意志のもとに戦争を放棄するという、能動的な条文に変えられた。NHKスペシャルでは、この過程を当時の速記録から再現したものであった。
 以下に引用するGHQ草案第8条の戦争放棄条項と、現行憲法の9条を比べると、その違いは明瞭である。

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GHQ憲法草案の第8条
国民ノ一主権トシテノ戦争ハ之ヲ廃止ス他ノ国民トノ紛争解決ノ手段トシテノ武力ノ威嚇又ハ使用ハ永久ニ之ヲ廃棄ス
陸軍、海軍、空軍又ハ其ノ他ノ戦力ハ決シテ許諾セラルルコト無カルヘク又交戦状態ノ権利ハ決シテ国家ニ授与セラルルコト無カルヘシ

日本国憲法
第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

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 たしかに違いは明瞭である。GHQの草案には「国際平和」の文言はなかったのだ。
 衆議院の憲法改正案小委員会での審議において、社会党の鈴木義男議員の発議によって、「強いられたメソメソした戦争放棄」という受け身のニュアンスではダメだ、という議論になり、他党の議員もこれに賛同。国民自らの意志で「積極的な摂理として平和を希求」するという内容の条文へと変えようという議論になったという。
 その際、社会党の憲法草案の中にあった「日本国は平和を愛好し国際信義を重んじることを国是とし・・・」という条文が参考にされた。小委員会委員長の芦田均(自由党・のちの首相)は、これらの議論を積極的にリードしていた。

 またGHQ草案では、自衛のための交戦の権利も認められないと解釈されるのに対し、現行憲法の第一項では、侵略目的での戦争を放棄し、芦田委員長の提案で「前項の目的を達するため(つまり侵略のための)」の戦力は保持しない加筆されている。つまり侵略的な戦力および交戦権はないが、自衛のための戦力と交戦は可能であるという条文に変えられているのだ。

 衆議院議員たちの主体的な意志で、独自の条文に変えられている。
 GHQ草案の第8条は、占領軍が非占領地域の民衆に押し付けているという印象をぬぐえないが、現行憲法では、国民が主体的・積極的にこれを選択したという意志が明確になっている。決して押し付けられた条文ではない。

 米ソ冷戦がとん挫させてしまったが、当事は、国連軍が機能し、国連中心の国際平和活動が実現するということを視野に入れた上での、「国際平和を誠実に希求する」という条文であった。この本来の理念に立ち返ることこそ、「積極的平和主義」といえるだろう。単独行動主義の米国への追従を、そう呼ぶのは正しくない。

 安倍晋三首相が本日、2020年の「憲法改正」を目指すと宣言した。これ自体、国務大臣の憲法擁護義務を規定した憲法99条に反する憲法違反である。憲法改正は国民の意志により国会が発議するもので、首相が発議することは当然できない。
 首相が立憲主義のイロハもわかっていないのは相変わらずであるが、彼は同時に「(9条の)1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む考え方は国民的な議論に値する」と述べたそうである。首相ですら、9条の1項と2項が押し付けられたものではないという事実を否定することができなくなったのかも知れない。
  
 


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは (麻生博美)
2017-05-04 12:25:08
こちらのブログをツイッターに投稿させていただきます。(実は2度目です、事後ことわりになりごめんなさい)
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ありがとうございました ()
2017-05-04 23:58:32
麻生さま
 ツイッターでの紹介ありがとうございました。もちろん、ご自由にツイートお願いいたします。
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こんばんは (麻生博美)
2017-05-21 23:03:57
関さん、ありがとうございます。 実は少し前、東京新聞の図書欄に、「赤松小三郎ともう一つの明治維新」が紹介されていたのを、息子が見つけて、この本はどうしても読んでみたいと即購入したものを私も借りて読んだのですが、これ迄教わったり何となくイメージ付けられていた明治維新についての知識が、相当怪しく間違っていたことを知り衝撃を受けました。こうした歴史的事実は、皆が知らなければいけないことですね。学校でも、正しい事実が書かれた教科書で学ぶ権利があるのではないでしょうか。嘘を教えられたのではたまりません。関さんのこの著書は、新たな教材を作る為の貴重なベースになるのではないかと私は思います。
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読んでくださって感謝です ()
2017-05-27 13:21:34
麻生さま

 『赤松小三郎ともう一つの明治維新』読んでくださって感謝申し上げます。
 政権が明治維新150周年キャンペーンを繰り広げようとするほど、それを胡散臭いと思う方がたも増えており、心強い限りです。
 長州史観は確実に瓦解しつつあると思います。
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