遅れましたが、第21回「戦端」の感想を簡潔に書いときます。
沼田領問題をめぐって北条と真田がそれぞれ徳川・上杉を巻き込んで泥沼の抗争を繰り広げてきたのは、これまでのドラマで描かれた通り。いよいよその抗争に最終決着がつく段階になってきました。
私にとっては意外でしたが、どうやら北条家滅亡につながる事件のきっかけをつくった主役ともいえる北条方の武将・猪俣邦憲、また真田方の悲劇の武将・鈴木主水および息子の鈴木右近はドラマには登場しないようです。う~ん、ちよっと残念。
あくまでの源次郎の目線で大坂城中の出来事を中心にドラマは綴られていくようです。もっとも、名胡桃城をめぐる合戦シーンはなくとも、「戦国裁判劇」をじっくり描くというのは斬新な視点で、次回も面白そうです。
おそらく実際には、北条側と真田側が一同に会して、秀吉の前で弁論を繰り広げるという裁判はなかったと思いますが、秀吉なりに北条側と真田側の双方の言い分をよく聞いたうえで裁定を下したことは確かなようです。実際に、事情聴収や尋問などが行われ、そのうえで裁定が下されたのだと思います。
沼田領問題は、万事を武力で決するという戦国の世の慣行が終わりを告げ、私戦を禁止し、領地争いは公儀の裁定で決着するという近世社会に移行していく過程での一つの象徴的な出来事だったと思います。新しい時代の幕開けとしての沼田領裁定問題を丁寧に描くのは、重要な視点だと思います。
ところで、真田昌幸まで隠れて上洛していたことになっていました。これは史実にはない三谷さんの脚色かと思いきや、あながちそうとも言えないようです。
天正17年(1589年)に昌幸が上洛したという記録はないのですが、天正17年に昌幸が上田で発給した文書は年末の11月になるまで皆無であることから、天正17年、昌幸は秋になるまで上田を留守にしていたのではないかという推定が成り立ちます。
柴辻俊六氏は、北条家臣の板部岡江雪斎が上洛していた天正17年、昌幸も在京していた可能性が高いと推定しています(柴辻俊六『真田昌幸』人物叢書、吉川弘文館:186ページ)。つまり秀吉は、板部岡江雪斎のみならず、昌幸の言い分も直接に聞いた上で裁定を下した可能性の根拠となります。
もっとも昌幸が在京していた確かな記録はないことから、「真田丸」の昌幸は、板部岡江雪斎とは直接会わず裏で隠れて源次郎に指示していたということになっていました。これは史実を正確に踏まえたうえで、なおその行間を読んだ高度な脚本といえます。すごい。
さて、第21回を視聴して、多くの視聴者が疑問に思ったであろうことは、「天下の大大名の北条ともあろうものが、なんで沼田城にあんなに執着するのだろう?」ということだったのではないかと思います。沼田にあんなにこだわらなければ滅びずにもすんだであろうに・・・・と。
当時の沼田は、現在では考えられないくらいに重要な、交通の要衝中の要衝だったと思います。沼田を起点に、越後にも会津にも信濃にも通じるからです。かつては上杉謙信が越後から関東に攻めてくるときには三国峠を越えてまず沼田に出てきました。その際には沼田が上杉方か北条方かで北条の戦略は全く変わってきます。沼田が北条側であれば上杉軍は簡単に関東に進出できませんが、上杉側であればそこを拠点に容易に関東に進出されてしまいます。
上杉と組んだ真田が沼田を抑えているというのは、関東の大部分を支配する北条にとって、ノドに刺さった骨のようなものだったと思います。真田の沼田領は北条の関東覇権を脅かす最大の懸念材料といっても過言ではなかったほどだったと思います。
時代は下って徳川政権になってからも、真田の沼田領は、徳川公儀体制にとって頭痛の種だったのだろうと思います。江戸時代、基本的に関八州は徳川の直轄地か親藩・譜代・旗本領でした。ところが関八州の中に、ただ一つだけ不可思議なことに外様大名領があったのです。他ならぬ真田の沼田三万石でした。北条が真田の沼田領を関東支配にとって最大の邪魔と思ったのと同様、徳川公儀も真田の沼田が邪魔でした。
さらに不都合なことに、明暦の大火で江戸城の天守閣が消失した結果、関東地方で唯一五層の天守閣を持つのは、真田信幸が造った沼田城だけになってしまっていたのです。関東の徳川領にはどこにも天守を持つ城がないのに、よりによって外様の真田だけが生意気にも立派な天守閣を・・・・。徳川の関東支配にとって、これほど目障りなものがあったでしょうか。
遺憾なことに、信幸の孫の沼田の領主真田信利が徳川家にとってはまことに好都合な暴君だったものですから、杉木茂左衛門の直訴事件をきっかけに真田沼田領は改易処分となり、目障りな沼田城天守閣も破却となったわけです。ああ、もったいない・・・・・。
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どこまで史実か時折、疑問におもいながらも楽しんでいます。
こちらのブログで詳しく、その辺を解説して頂き、次回の放送もより楽しめそうです!
ありがとうございます!
(メッセージ、拝読しました。心からありがとうございます)
三谷さんの脚本、毎回びっくりさせられますが、史実と矛盾しないように描いているところがすごいです。来週もサプライズがありそうですね。
「軍師官兵衛」では福岡も盛り上がったことでしょう。上田も今は大変なにぎわいのようですが、これも今年限り??