代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

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利根川・江戸川有識者会議での論点(2) 踏みにじられた「環境」と「総合的管理」の理念

2012年11月13日 | 利根川・江戸川有識者会議

 1997年に改正された河川法の第一条には「河川環境の整備と保全がされるようにこれを総合的に管理する」と書かれている。しかし、国交省は、ダム建設のため「目標流量先にありき」の議論を進めている。現行の河川法のどこを読んでも、「河川整備計画の策定に当たってはまず目標流量を決めねばならない」などという規定はない。利根川の治水基準点の目標流量を1万7000㎥/秒とすれば、直ちに上流に八ッ場ダムを建設してピーク流量をカットするという理屈に直結する。

 利根川・江戸川有識者会議の10月4日に開かれた第6回会議で、鷲谷いづみ委員(東京大学大学院教授)は次のように述べていた。議事録より引用。

「治水にも、自然環境の保全再生にも、地域の社会にとっても、いずれにも有効な対策を、できれば河川域の中だけではなくて、もっと流域全体も視野に入れたような形で対策をとれば、コストに比して、治水についても、環境についても、地域の振興等についても、より効果的なことができるんではないか」

 これこそ、改正河川法の本来の理念に基づいた河川整備のあり方であろう。「環境も地域振興も含めた総合的な視野の治水」を訴えた鷲谷委員の提案は、関東地整からは何の回答もないまま黙殺されている。これは河川法第一条違反ではなかろうか。 
 
 本来、河川法第一条の趣旨に則れば、八ッ場ダムの検証に当たって「総合的」に検討すべき論点は治水・利水以外にもっと多い。代表的な論点は下記のようなものだ。

①水没する名勝・吾妻渓谷。江戸の集落が浅間山の噴火でそのままの形で埋まり江戸の農民生活をそのままの形で再現可能な「日本のポンペイ」との呼び声もある東宮遺跡。丸岩城などの中世城郭群。これらあまりにも貴重な自然・文化・歴史遺産を保全すること。これらの保全を通してこそ地域振興も可能になるであろうこと。

②八ッ場が浅間山噴火の噴出物が堆積したもろい地質でダム建設が地すべり災害を誘発する可能性が高いこと。

③八ッ場ダムにはヒ素も流れ込む飲用には適さない水質であること。

④ダムが水を貯めることにより吾妻川流域の小水力発電所に十分な水が回らなくなり発電量が減であろうこと。

 しかし、こうした「総合的」論点は、河川整備計画の策定に当たって議題に上がらない。あるのは1万7000㎥/秒という魔法の(虚構の)数字なのだ。
 


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