代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

国民国家を縛るスタンダードからグローバル企業を縛るスタンダードへ

2013年05月14日 | 自由貿易批判
  ひさしぶりに内田樹氏のブログを拝読させていただいた。5月8日の記事で「『国民国家としての日本』が解体過程に入った」という分析がなされていた。

 http://blog.tatsuru.com/

 私はWTOが発足したときから全世界で国民国家は解体過程に入ったと思っているが、まあ、記述内容の多くには同意する。しかし、残念ながら対案がない。「じゃあどうすればよいのか」ということで私の意見を述べさせていただく。
 先日、さる右派の方と話していたら、内田氏とほぼ同じ危機意識を共有しておられた。国民国家が、自国の中で最も成功したグローバル企業に必死に貢いでも、結局は裏切られて資産を持ち逃げされ、財政は破たんし、残された国民を苦しめるだけ。これは、その右派の方と私のあいだで全く一致した意見であった。

 右派の方の対策としては「企業に愛国心を植え付ける」というご意見だった。私は、「国民国家」が連合して「グローバル企業連合」に対決を挑むしかないと思うと述べた。「非現実的だ」と言われたが、私にはそれほど非現実的だと思えない。愛国心で、グローバル化の弊害を克服できると考える方がよほど牧歌的であろう。

 最低限、以下の三つが必要であろう。以下のような国際協調を実施すれば、結果として各国民国家の独自性と多様な文化とそして雇用は守られる。
 

(1)法人税と環境税の国際的適正化
 WTO加盟国のあいだで国際的に遵守すべき法人税の最低税率を決めてしまう。例えば、最低30%というように。どの国に移転しても同じだけの法人税率を課されるのなら、安い法人税率を求めて国外に逃避しようとするインセンティブはなくなる。
 同様に、環境税は国際的に適用せねば意味がない。A国で炭素税を課せられたら、炭素税のないB国へ工場を移転するという強力なインセンティブが働く。よって法人税と同じく、環境税もWTO加盟国で一律に導入すべきである。 
 また、タックスヘイブンは当然規制する。WTO非加盟国がタックスヘイブンを実施した場合、経済制裁の対象とする。

(2)社会的共通資本は自由化の対象外
 教育・医療・環境・社会インフラなど社会的共通資本は、グローバルな自由化の対象外とする。このままグローバル企業がこれらの社会的共通資本の領域の侵食を続けることを許してはならず、各国が定めた独自のルールを尊重すべきである。

(3)穀物貿易は各国の食料主権を尊重
 穀物など必需性の高い農作物に関しては、各国が独自の意志で自由に関税率を設定する権利を付与する。
 

 国民国家を守るためには、逆説的に、以上のようなグローバルスタンダードが必要だ。こうした諸課題こそ、本来はWTOの新ラウンドで話し合われるべきことのはずだ。
 WTOのドーハランドやTPPで定めようとしてきたグローバル・スタンダードは、国民国家の手足を縛り、国民国家の溶解を加速させるスタンダードであった。必要なのは、グローバル企業を縛るためのグローバル・スタンダードなのである。これは、国民国家の諸機能を復活させ、生命と環境をはぐくむことを可能にするものだ。

 グローバル競争を勝ち抜けと、ある国民国家が、別の国民国家を敵視するのはばかげている。国民国家同士がライバル意識でお互いに競い合えば、まさに低賃金・低税率で世界から効率的に搾取・収奪したいグローバル企業群の思う壺である。
 国民国家群が手を携えて、グローバル企業群に対決を挑むしかない。それができなければ、戦争の悲劇が繰り返されるだけであろう。

 ここで書いたことなど、詳しくは、拙著を参照されたい。
関良基『自由貿易神話解体新書 ―「関税」こそが雇用と食と環境を守る』(花伝社、2012年、1575円)
 



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