代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

米国への貢納体制を終焉させるために

2005年03月25日 | 時事問題
 ブログに「時事問題雑感」という新しいカテゴリーをつくりました。本ブログで扱ったトピックと関連する範囲で、時事問題へのコメントもしたいと思います。(もっとも、仕事もあるのであまり頻繁に時事問題について書くことはないと思いますが)。本日は、日本の厚生労働省が私たちの年金資金をさらにブッシュに貢納しようという意思を固めたという『日経』記事です(もちろん記事そのものにはそう書いてあるわけではありませんが)。
 
「外貨建て資産積み増し」(『日本経済新聞』3月24日夕刊)
 昨日の『日経』の記事です。
「厚生労働省は公的年金(国民年金と厚生年金)の市場運用で外貨建て資産を積み増す方針を固めた。……外国株式と外国債券の割合を現在予定している15%から数%引き上げる。国内債券などに偏っている資産構成を見直し、安定運用を前提としながら運用収益を高めたい考えだ。……」

 「外国株式」と「外国債券」とはすなわち、ほとんどが「米企業株式」と「アメリカ国債」の購入に充てられることを指すのでしょう。信じられません。暴落寸前の米国債をさらに購入するという愚行は、ほとんど私たちの年金資金をドブに捨てるようなものです。これで将来世代の苦しみは確実に増加します。何せ米国債は、暴落間違いなしという、地球上でもっともリスクの高い金融商品なのですから! 何が「安定運用」なのか、聞いてあきれ返ります。
 ライスが訪日した際、牛肉の輸入再開時期を示さなかったにも関わらず、やけにおとなしく帰っていったなと不信に思っておりました。なるほど、小泉が牛肉問題の代替としてライスに与えたお土産はこれだったのか? と推測したくなってきます。(誰か情報をお持ちの方は教えて下さい)。牛肉問題でライスの言いなりになると世論が黙ってはいないと考えた小泉は、世論に気づかれないよう、こっそりとライスにこのような貢物を渡したのではないでしょうか?
 年金資金を利用して「さらに追加的に○兆円を米国債と米国企業の社債の購入に当てます」と約束したとしたら、ライスは大手を振って帰国できますね。
 こうやって、私たちのなけなしのお金を米国に貢いだ結果が、結局は回りまわって、ハゲタカファンドによる日本企業の破壊と買収に使われ、私たちをさらに苦しめることになるというわけです。あまりの愚かさに言葉を失います。

 そしてもう一つ、今回の厚生労働省の決定を糾弾しなければならないのは、もちろん米国による侵略戦争発動の可能性を高めるからです。
 それに関連して同じ日の『日経』に次のような記事がありました。

「ベネズエラの武器購入懸念」(『日本経済新聞』3月24日夕刊)
 「ブラジル訪問中のラムズフェルド米国防長官は23日、首都ブラジリアでルラ大統領やアレンカル国防相と会談した。…… 会談後の記者会見で、同長官はロシアからの大量の武器購入計画を進めるベネズエラについて言及し、『なぜベネズエラが十万丁もの自動小銃AK47が必要なのか想像もつかない。個人的にはそんなことはない方がよいと思う』と語り、強い懸念を表明した」。
 
 なぜベネズエラが武器を購入せねばならないのか、「一番よく知っているのはお前だろう」と言いたくなってきます。2002年にクーデターを起こしてベネズエラのチャベス政権を転覆しようとしたくせに、よく恥ずかしくもなくこんなことが言えたものです。(ベネズエラのクーデター事件に関しては、グレッグ・パラスト『金で買えるアメリカ民主主義』(角川書店)を参照)
 私は、アメリカがイラン侵略をリスクが高すぎると考えて回避した場合、次に狙うのはベネズエラではないかと考えています。もちろんシリアや北朝鮮であるわけがありません。それはブッシュ政権が「石油メジャーの、石油メジャーによる、石油メジャーのための政府」であることを考えれば、狙うのは当然のことながら産油国だろうからです。
 ベネズエラのチャベス大統領に防衛本能が働いて武器購入に走るのはあまりにも当然のことです。
 ベネズエラ政府は、米国による市場原理主義の押し付けに反旗を翻し、米国石油資本への課税を強化し、モンサント社による遺伝子組み換え作物の作付け計画を拒否し、国内富裕者への課税も強化して、失業削減、教育と福祉拡充のプログラムを熱心に行ってきました。そして乳幼児死亡率の削減、識字率の向上、失業率の削減などに大きな成果をあげてきたのです。ベネズエラは、多くの途上国にとって希望の星であり、決して米国に侵略させてはならないと思います。

 近年、南米にはチャベス政権の他にも、ブラジルのルーラ政権、ウルグアイのバスケス政権など相次いで社会民主主義的政策を志向する左派政権が誕生しています。 
 米国としては、まずはチャベスを打倒することにより、選挙による左派政府誕生の連鎖反応が続くのを阻止し、NAFTA(北米自由貿易協定)を、南米を含むFTAA(米州自由貿易協定)へと拡大したいことでしょう。
 私は、ブラジルが主導するメルコスールを南米共同体へと発展させ、NAFTAに対抗していくべきだと思います。その理由はもちろん市場原理主義が人間を幸せにしないからです。(アジアにおいて東アジア共同体が必要なのも全く同じ理由です)。
 南米の人々が米国による侵略やクーデターの恐怖から解放され、真に自由で民主的な意思決定をすることが可能になれば、当然、そうした選択をすることでしょう。歴代の米国政権がラテンアメリカに広めてきたのは、民主主義ではなく、民主主義を侵略やクーデターで転覆することによる恐怖と貧困と絶望だったのです。(これに関しては、ウィリアム・ブルム『アメリカの国家犯罪全書』作品社を参照)。
 今回のラムズフェルドのブラジル訪問は、チャベス大統領とルーラ大統領の緊密な関係に風穴を開けて、チャベスを孤立させるための外交だったのでしょう。つまり米国は、対ベネズエラ侵略戦争を準備しているのではないかと思われるのです。
 
 ですから、日本はこれ以上米国債を買ってはいけないのです。厚生労働省に抗議しましょう。
 
 本当にろくなニュースがなく、日々、絶望的な気分になりますが、次のニュースは「良かった」と思えます。

「民主党『当面公社維持』の見解」(『毎日新聞』3月25日 朝刊)
 
 民主党の「次の内閣」はようやく、「政府の郵政民営化方針に反対し」、「日本郵政公社を維持したまま効率化を求める」という公式見解に達したそうです。民主党の「郵政改革調査会」は、現在の郵政民営化方針は、「特殊法人改革にも、非効率な資金運用状況の改革にも役立たず、(国債暴落などの)リスクが高まるだけ」と批判したそうです。全くその通りです。良かった!
 岡田代表もよく考え直してくれました。岡田氏は「郵便は公社でよいが、郵貯は民営化すべきだ」というのが持論でした。それは彼が、日本経済の構造問題の本質をよく理解していなかったからだと思います。

 今回、民主党が上記の見解に達したことは大いに評価したいです。本当に良かった。
 竹中氏の真の狙いは、「郵貯の資金を民間に流す」ではなく「郵貯の資金を米国に貢ぐ」なのです。現在、竹中は自民党にどんどん譲歩し、それがあたかも「改革」に逆行しているように、多くの日本のおバカなマスコミ(敢えて何処とは申しません)は報道しています。竹中氏にとって、民営化の本質はあくまで「日本人の預金を米国に貢ぐ」ことなのですから、その点以外の問題は全く瑣末であり、竹中氏はいくらでも譲歩するでしょう。

 民主党が竹中の意図の本質に気付いたとすれば、大きな前進だと思います。

 民主党の皆様にさらにお願いです。次は「反民営化」を旗印に、亀井静香氏のような自民党内の民営化反対議員との連携を強め、亀井派・橋本派・高村派・旧宮沢派系の心ある議員に離党を決意してもらい、次の選挙を待たずに彼らと連立して一挙に政権を奪取して下さい。
 それで米国への貢納システムを終焉させて下さい(大きな波風が立たないようにソフトに)。さらに小泉のためにズタズタに破壊されてしまった日中関係と日韓関係を修復し、東アジア共同体の構築へと外交の舵を切っていただきたく存じます。

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4 コメント

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Unknown (武井)
2005-06-17 14:09:37
 このような感情的な意見では世界情勢を見誤る恐れがあります。

 「強すぎる反米感情」というフィルターを通して世界を見てしまうことで現れる、典型的な世界観になってしまっています。

 アメリカの「一極支配体制」という動かし難い事実に対する反発が強すぎて ドイツ、フランスという複雑な国民感情ゆえに偽善的にならざるを得ない両国家の国益のために、推し進められてきたEUの危うさへの軽視。

 アメリカのグローバル化を口実にしての帝国主義的にも見える傲慢さへの道徳的反発が強すぎて、日本の いわゆるA級戦犯など、逆立ちをしても足元にも及ばないヒトラースターリン毛沢東の悪辣非道。そして今に続く中国共産党のウイグル族弾圧 韓国、インド、ベトナム侵略 ポルポト派への全面支援 ウイグル自治区での核実験の強行 フィリピン、インドネシア他でのテロ支援 5000万人以上の同胞殺害 チベットでの120万人以上の虐殺 1989年のチベット戒厳令布告でのチベット人殺戮の張本人 現中国共産党総書記胡錦濤 そしてその男が実行する犯罪国家北朝鮮への支援等々に対する道徳観念の鈍磨。

 アメリカのイラク戦争に対する「大義の無さ」への関心が強すぎて、人類史に刻まれるであろう中東の歴史的民主化の大きなうねりへの無関心。

 アメリカが京都議定書を批准しないことへの非難が強すぎて 中国の破滅的な環境破壊を「発展途上国が経済発展する過程では仕方が無い」などと その環境破壊の真の原因が中国共産党の、民主主義国家では考えられない程の信じ難い腐敗堕落から発生していることを 真剣に検討する気力さえ奪っている。 

 そして アメリカの 他国の追随を許さないその経済力、軍事力の圧倒的な強さに対する反発から まだ共産主義や社会主義が夢を振りまいていたころに 愚かな進歩的知識人によってあげつられていた「資本主義の欠点」とそれによって引き起こされるはずの「大恐慌」や「貧富の格差」による「革命」を彼らが待ちわびたように アメリカ型資本主義の終焉を期待しても イラクでアメリカがベトナムのような泥沼に引きずり込まれるとの観測がただの希望的観測に終わったように 期待外れに終わるのが「落ち」なのです。現実を冷静に判断しなければなりません。  

 1971年の「ニクソンショック」以来 第一次石油ショック、ベトナム戦争によるアメリカ経済の疲弊、第二次石油ショック、アメリカの双子の赤字、1985年のプラザ合意による円高不況、バブル崩壊、2月危機、3月危機、ITバブル崩壊 日本の巨額財政赤字 その度に 東京発世界大恐慌が起こる ニューヨーク発世界大恐慌が起こる ドルの大暴落が起こる 日本経済が崩壊する アメリカ資本主義の終焉だと大騒ぎを繰り返したマスコミ 経済学者 評論家の面々は、今もマスコミで大活躍ですね。 おめでたいことです。

 

 アメリカの傲慢さや資本主義の欠点は、もちろん私も認めるところです。



 しかし 日米という世界のGDPの半分弱を占める2大国の経済運営を仔細に検討すると、天変地異が起こらないことを条件に 当面(15年~25年)は一段の経済発展が見込めこそすれ 経済破綻の兆候はありません。     

 日米の最大の課題は中国、北朝鮮の崩壊という冷戦最後の過程から人類をいかに守るのか ということに集中する事になると思うのですが、いかがでしょうか。

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返事が遅れ申し訳ございません ()
2005-06-28 07:24:09
武井様

 多忙につき返信が遅れて申し訳ございませんでした。コメントするのがかなり難しい課題ですので、また時間に余裕が出来てから、新しいエントリーなどでゆっくり論じさせていただきます。簡潔にですが、私の見解を述べておきます。



 北朝鮮に関しては早晩あの体制が続かないことに関しては私もそう思います。しかし、崩壊による悲劇の

発生を回避するよう、統一コリアへとソフトランディングするような知恵を絞っていくのが近隣諸国の勤めだと思います。(日本の右派はじつは統一コリアの出現を望んでいないように見えますが・・・・)

 北朝鮮の飢餓の主因は森林破壊による洪水ですので、森林に関心を持つ私としても「何とかせねば」と思っております。日本が経済協力するとしたら、まっさきに森林再生を支援すべきではないかと思います。



 中国に関しては、農村部の農民はますます苦しく、事実、暴動が起きています。私も貧困地域の貴州省などで調査していますので、それに関しては非常に憂慮しております。しかし、それが体制崩壊につながるようなことはないと思います。農民の一揆がすぐに体制崩壊につながるのなら、江戸幕府などもう100年早く崩壊していたはずです。

 もっとも中国農村の疲弊は、WTO加盟によって米国などの輸入穀物と競争せねばならなくなり、穀物価格が下落しているのが最大の要因です。朱鎔基前首相が心配していた通りの事態になったのです。中国の工業製品輸出にとっては有利なWTO加盟という事態が、7割の農村住民の生活を逆に圧迫しているのです。つまり、農村の疲弊は、社会主義の失政による問題ではなく、グローバル資本主義化に伴う問題だと思います。これは中国のみならず全ての途上国に共通する問題です。

 中国農民の一戸あたり平均経営規模は0.5haという超零細経営です。農場の平均経営規模が200haなどという米国農業と競争しようとする発想そのものが間違っていると思います。(これは日本にも同様にいえることですが)

 それでも、中国農業に良い点があるとしたら、「土地が均等に分割されているため、零細であっても土地なし農民がいない」という点でしょう(現在、この前提が脅かされているのですが)。農民反乱による体制崩壊は、中国よりも、ますます多くの農民が土地を追われている中南米などでこそ(それは主として米国の責任です)、まず心配すべきでしょう。



 アメリカ経済は「破綻」というカタストロフィックな事態になるか否かはわかりませんが、ベトナム戦争後に疲弊した以上に、疲弊するだろうと思います。その結果、スーパーパワーたり得なくなるだろうと思います。年間6000億ドルという天文学的な貿易赤字を抱える国の通貨が、このまま基軸通貨でいられるわけがありません。この点、米国経済は15-25年は安泰という見方には賛同できません。これは世界観の違いというよりも予想の違いですので、議論しても水掛け論になってしまい不毛かと思います。今後展開される事実によって判断いたしましょう。



 私はハワイ侵略やフィリピン侵略に乗り出す以前の、米国の本来の国是である「モンロー主義」の伝統に回帰しするのが、世界にとっても米国にとっても最も幸いなことだろうと思います。



 他国に関する干渉に関しては、中国の非ももちろん沢山ありましたが、転覆した政権の数、殺した民間人の数、いずれにおいても米国が中国をはるかに上回っております。中国の非ばかりあげつらうと、逆に米国の非が見えなくなるという問題があります。

 例えば、日本の「反中国派」は、何かあれば「中国政府のチベット虐殺」をあげますが、彼らがそれと同じような関心を「インドネシア政府の東チモール虐殺(東チモールの人口の3分の1は虐殺されました)」に払ってきたのかというと、全くそのような事はないようです。

 東チモール虐殺に関しては、それを進めたスハルト政権を支援していた米国と日本にも大きな責任があります。

 私は、日本とは直接的に関係のないところで進められた虐殺事件よりも前に、自国も関係のあるところで進められた虐殺事件にまず関心を持ち、それを止めよう、あるいは二度と起こさないように勤めるのが先だろうと思います。

 それが出来る国のみが、はじめて「中国の人権侵害」を批判する資格も生まれるだろうと思うのです。

 米国など、世界中でどれだけ民主的な政権を転覆し、人権を蹂躙してきたのかを考えれば、とても本来ならば、中国に対して、「民主主義」とか「人権」などと口にする資格もないはずです。

 
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引用元はどこですか? (近畿の野次馬)
2006-08-15 23:56:01
武井さんへ



こんばんは、近畿の野次馬と申します。早速ですが、上記の中国共産党によるチベット人「大虐殺」の犠牲者や、文革の犠牲者数はどこのなんと言う資料の統計からの引用でしょうか。

それからもうひとつ、中国の環境破壊が心配だとおっしゃいますが、中国に風力発電や太陽光発電の技術・資金提供、あるいは節電技術を提供するのに積極的な国、企業がいったいどれだけあるのでしょうか?
返信する
近畿の野次馬さま ()
2006-08-17 09:21:10
 このブログの管理人の関です。

 武井さんは、昨年6月のこのコメントを最後にコメントを下さらないので、多分もうこのブログを閲覧されていないと思います。

 ですので武井さんから返答はないでしょう。



 武井さんのみならず、日本の反中国派が掲げる数字はかなり誇張されていますね。



 たとえば彼らは「毛沢東は大躍進で3000万人を殺した」とか良く言いますが、あれは政策の誤りによる「餓死」であって、殺人ではありません。少なくとも毛沢東が、殺そうと思って殺していたわけではありません。あれを「殺人」というのなら、第二次大戦中の日本兵の「戦死者」の7割はじつは餓死であり、彼らは米国や中国に殺されたのではなく、兵站補給を怠った日本帝国によって殺されたことになります。東条英機は殺人者ということになります。



 日本の反中派の歴史の捏造ぶりたるや、「中国が日中戦争の中後側の犠牲者の数字を誇張している」というのとあまり変わらないと思います。
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