あっさりあきらめた大河ドラマ『平清盛』ですが、ふと気がつけば、地上波でレギュラー放送の新作時代劇って、『水戸黄門』なき後、NHKのこの大河だけなんですね。BSでは『鬼平犯科帳』や『新・座頭市物語』などの旧作が切れ目なく再放送されているし、DVDで若き渡辺謙さんの『仕掛人梅安』や山﨑努さんの『雲霧仁左衛門』辺りもときたま集中的にレンタルで見るので、そこまで事態が深刻とは思いませんでした。
まぁ、当地では、地味ぃにテレビ東京系火曜深夜26;30~の30分枠で『逃亡者おりん2』放送中ですが、こちらは作風的にも時間帯的にも事実上“実写深夜アニメ”ですから(“逃亡者”と表記して“のがれもの”と読ませることさえ、知っている人がどれだけいるか)、平日~週末のゴールデンタイムの“家族の茶の間”から、時代劇はほぼ姿を消し、唯一残った砦がNHK大河、今年2012年においては『平清盛』ということになります。
こうなると、大河の背負う役割は果てしなく重い。かつては重厚な戦国絵巻から、岡っ引き捕物帳、やくざ侠客剣劇、忍者アクション、妖怪伝奇、商人丁稚コメディまでいろいろな作風・タイプの時代劇がそれぞれのファンを持って、傑作佳作もあれば駄作、愚作、笑止作もありつつ妍を競っていました。
たとえば『水戸黄門』のベタな安心感、『必殺』シリーズの漫画チックなキャラ立ちと絡み、『鬼平』『剣客商売』など池波正太郎ものの粋な人情味、『大奥』シリーズの華麗なザ・女優揃い踏み感など、時代劇ファンが時代劇に期待してきたあらゆる魅力要素がぜんぶ大河“一本かぶり”状態なわけで、こんな中で船出するのでは『平清盛』も大変です。重すぎる。海賊王どころか、沈没でしょう。そりゃ画面も濁るわ、走りもドタドタするわ、息子の嫁に手もつけるわ、ってなもんです。
如何な製作予算縮小時代と言っても、他ジャンルより人気があり数字が取れれば利にさとい業界ですから放送枠消滅はなかったはずで、要するに、ラブコメや事件もの、コミック原作もののドラマに比べて、時代劇は求められなくなってきた、求める人が減ってきたという事実は認めざるを得ません。
現代劇の数倍、カネも手間ヒマもかかる、セットや道具や絵づくりの熟練スタッフも、ヅラや殺陣がサマになる役者も減っている、苦労して撮ったあげく視聴率はチョボチョボ、となれば、どの局も時代劇に手を出さなくなるのは当たり前です。
こういう、時代劇逆風の時代のNHK大河は、いったいどこを目指せばいいのでしょうか。漫画原作が受けているから漫画的な構成、漫画的な演出にすればいいのか、家族再生物語『家政婦のミタ』が人気だから親子兄弟姉妹・夫婦の絆強調のストーリーにすべきなのか。月9に代表されるラブコメが安全パイだから、イケメンとモデル、アイドル系女優さんによる恋愛胸キュン要素をふんだんに入れればいいのか。
ひとつ前の記事で書いたように、月河はここずっと“大河は大人のヒーローものであってほしい”と思っています。“ヒーロー”と銘打つと、なんだか変身したり、必殺ワザを持ったりしなければならないようで誤解を招きますから、もっと大人っぽく“英雄もの”と表現してもいい。
凡人にはない秀でた能力やすぐれた人間性を持ち、多くの人を惹きつけ動かすパワーのある人物が、降りかかる困難を乗り越え難敵を倒してのし上がる、ダイナミックで痛快な物語をこそ大河で見たいと思う。
平和な王国を築き上げて万々歳で終わるか、成功後慢心してもっと強い相手に滅ぼされ諸行無常エンドにするか、はたまたさらなる飛躍を目指して新天地に向かう開放型の終わり方にするかは作品それぞれであっていいけれども、要するに、見も知らない時代の見も知らない風物の中で、大時代な衣装とカツラと化粧をまとって演じられる“時代物”であることを目いっぱい利用した、非凡な主人公の非凡な活躍を見せてほしいわけです。“現実離れ”が堂々と許される枠組みが、そこにあるじゃないですか。胸キュン恋愛が見たければ月9を見ればいいし、家族ものをやりたいなら、そこらでロケでき道具も出来合いでいい現代の家族舞台でじゅうぶん。漫画原作がそんなに好きなら漫画自体を読めば済む話。大河が無理して真似っこ踏襲しなければならない理由はどこにもありません。
日曜朝のスーパーヒーロータイムへの長年のこだわりといい、最近では『カーネーション』への傾倒といい、自分はつくづく“異能の、異才の、異形の人が、異能異才異形ゆえに格闘し傑出する”お話が、とことん好きなのだなあと思います。
『平清盛』も1~2話辺り、“ヒーロー”という概念はかなり意識しているのかなとは思えました。“王家”直系の血をひく貴種の若者が、ヨゴレでヘタレでやさぐれ作りで登場し、喧嘩や博打など醜態をさらして顰蹙を買いバカにされまくるも、やがて自分の出自を認識し、ますます葛藤しながら徐々に覚醒、ついには草創者、変革者への道を…という序盤はどこかで最近見たな?と思ったら、韓国製史劇ドラマ『朱蒙』、『風の国』そっくりです。
ただ、大河で見たい“ヒーロー物語”は果たしてこんなんだったか?という疑問は厳然と残る。日本のTV界で唯一生き残った時代劇の牙城が、韓国のフュージョンファンタスティック史劇を思い出させる仕立てでどうするんだ、しかも受信料ふんだくっ………いやその、徴収している放送局が作っている時代劇じゃないですか。
いま少し、プライドと自覚をもってのヒーロー物語であってほしい。腐っても未来の入道=平清盛なんだから、ヨゴレ、やさぐれ作りにしても隠しきれないくらい底光りする、品格のある貴種を見せてほしいと願うものです。
……アレ?早々に下車したと宣言しておきながら、実は月河はまだ『平清盛』に脈々と期待を持ち続けているのか?日曜21:00~は『同伊(トンイ)』がますます盛り上がってきてるし、22:00から入浴家事タイムの後23:00~は『イ・サン』と続くから、あまりTVをビジーにしたくないんですが。この後はさらに、朝のスーパーヒーロータイムの録画チェックもあるし。『海賊戦隊ゴーカイジャー』は残り2話だしなあ。清盛くん(松山ケンイチさん)が海賊王気取ってる場合じゃないよ。いやホント。