『インディゴの夜』は第1週と、ファーストエピソードを11日(月・祝)で終え、晶(森口瑤子さん)がまだ半ば不承不承ながら店長職を受け入れて、次エピ以降への下地はOK、というところまで来ました。
「昭和」「おばさん」、「“ディスコ”と言って“クラブ”と言い直される」などの加齢ワードにいちいちツムジを曲げる、元・売れ筋女性誌編集者とは到底思えない晶のナーバス加減や、要所要所で巻き舌ダミ声でキレるステレオタイプ元ヤン表現など、ベタな漫画チック描写をそれなりにぬるく笑って過ごせれば、“従来の同枠との違いを打ち出した、新感覚昼ドラ”としてさしたる破綻は見当たりません。
何と言っても今作は、キャストの年代が圧倒的に若いほう寄りで、かつ“ユニークなホストクラブの型破りホストたち”という設定のため、“カッコかわいい”“おもしろミステリアス”“ネタ可笑しい”と多方面、高低さまざまのハードルをクリアしている面々なので、従来のここ枠の昼帯とは比べものにならないくらいトータルの絵ヅラが“軽快”です。晦渋さや、ねっとり湿気がこんなに少ない昼帯は記憶にないほど。
“年長組”の森口さんにしても、アラフォー設定にしては反則的に若々しく、六角精児さんは意外性があり(『相棒』の多趣味オタッキーで温和な鑑識マン役の、軽く倍は声量がある)、升毅さんはこれまた設定的に作り込むだけ作り込んでいる役柄なので、反則的におもしろい。
ただ、全体が若く軽く明るくなったのに比例して、目線も下がった。年齢的にも、人生経験的にも、読書歴・ドラマ視聴歴的にも、従来よりかなり低い層を目標に想定して製作されている感じです。高校女子、中学女子をメインに、昼休みのOLさんやパート主婦、専業主婦の中でも“ここ2~3年の間に就職、もしくは反対に寿退職→家庭入りした”人に目線が向いていそう。
要するにすべてがビギナー仕様で、夜のお仕事ものとしても、素人探偵ミステリとしても、アラフォー女子の“遅れてきた自分探し”ものとしても、敷居が低く入って行きやすい代わり、奥行きも浅い。スーパー浅い。
1stエピ、「自殺しようとする女性なら発見時に見苦しくないよう、身だしなみを気にするはず、赤のブラウスに緑のスカートなんてミスマッチな色合わせを着て死ぬはずがない」という晶の思い込み披露も噴飯ものなら、ホスト諸君が“さすが女性視点”とばかり納得して聞いているのも滑稽を通り越して憮然でした。
加えて11日放送の同エピ解決篇、晶が真犯人に到達する糸口が“青汁の緑色が判らなかった=色覚異常”とは、他愛なさ過ぎて噴飯する元気もなし。まぁ『相棒』を筆頭に、テレビ朝日の1話完結事件ものなんかではこの手の、トンデモトリックトンデモ手口、あるいはトンデモ動機をトンデモ思考回路で思いつき急転直下って珍しくないのですが、トンデモなら「これはトンデモですよ」と納得させる地合いを最初からしっかり作って踏み固めておかなければなりません。たとえば『富豪刑事』シリーズのようにね。
殺されたTKO(タケオ)(金子裕さん)が困っている人を見ると男であれ女であれほうっておけないたちで、インディゴの若手たちからも兄貴分にして恩人と慕われており、晶が酔って捨てた婚約指輪をこっそり拾って手紙を添え返してくれるような、心優しく男気あふれる性格だった等と中途半端にシリアスしんみり要素を付加してしまったから、「くっだらねー!」と気持ちよくバカ笑いして終了といかないわけです。
実はいちばん脱力したのは、第3話(7日)のインディゴ憂夜(加藤和樹さん)とエルドラド空也(徳山秀典さん)との、夜の線路沿い差しでの対話シーン、憂夜の「ウチのTKOが殺されたことは知ってるな?オマエの常連客に殺された疑いが高い」というセリフでした。
『Qさま!!』レベル以下。「疑い」「容疑」なら、「高い」ではなく「濃い」でしょうよ。どうしても述語を「高い」にしたいなら、「~殺された可能性が」にしないと、主述が噛み合わない。
見れる着れる食べれる、マジかよ?チガくね?のDQN設定人物ならなんでもありませんが、憂夜は公式の人物紹介によると「“んなヤツいるわけねーだろ”的に頭脳脳明晰、冷静沈着」設定なのです。頭がいい設定のキャラなら、頭の悪そうな言葉遣いをさせてはいけない。これは脚本家と、脚本をチェックするP、及び現場でOKを出す監督の責任です。
そもそも、この程度のセリフ内語法ミスが気になる時点で、ガハハと笑過せしめるだけの勢いがドラマに無いということ。もっとどうしようもない愚かな間違いだらけのセリフが、2時間ドラマなど溢れかえっていますからね。気になって引っかかってしまうということは、“うまく客を騙せていない、押し切れていない”のです。
一週終わっての感想は、「このドラマを見守り見届けるのは自分の任ではないな」というところに落ち着きそうです。製作サイドが“こういう人に視聴してもらいたい”とイメージする客層の中に、月河は入っていない気がする。逆に言えば、月河が観なくても、月河では気づけないおもしろポイントをしっかり見つけて楽しんでいる人が、確実にどこかに結構いそうな気がする。
ここで何度も引き合いに出しましたが、たとえば07年の同枠『金色の翼』は、修子(国分佐智子さん)が弟にもウソをついて槙(高杉瑞穂さん)と落ち合うべく東京に発った辺りで、“修子はヒロインではなく人物たちの欲望の触媒”と読み替えが成り、デュ‐モーリアの『レイチェル』との相関を見出した途端にぱーっと霧が晴れて、「どんな展開になっても、たとえ最終的に残念な出来になっても、自分だけはこのドラマを最後まで見届けよう」という意欲がフツフツと沸いてきたものです。長編の小説や、多篇収録の作家別短編全集などに取りかかったときに、そうしょっちゅうではありませんが経験する、“作品に呼ばれる”“作り手に呼ばれる”感覚(もちろん、必ずしも“傑作・秀作の予感”を意味するものではありません)です。
『インディゴ』には未だそれがない。…まぁ、2ndエピ以降も、一応OPに登場している面子が戦列に出揃うまでは付き合おうと思います。『任侠ヘルパー』以来の高木万平・心平ツインズと、『浅見光彦 ~最終章~』に出ていたらしいアバレキラー田中幸太朗さんの顔が見えますし。
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