『外事警察』未視聴だった第1話を、待望の全話一挙再放送(BS‐hi、10日)で録画視聴。良かった良かった。普通に良かったですよ。「良かった」と直球で言える第1話だったことに安堵です。
初見では“凡庸ではないけど、そこらにいなくはなさそうな公務員警察官”といった風情で登場する住本(渡部篤郎さん)もいいし、同期の中では優秀でモティベも高いけれど、突然の研修発令に戸惑い尻込み気味ながら「なにくそ、あんまナメないでよ」と飛び込んでいく、刑事志望の所轄婦警松沢陽菜ちゃん(尾野真千子さん)の醸し出すフレッシャーズな雰囲気もさわやかでした。
2人ともそれぞれに、FISH案件に深く踏み込んでしまうアフターとビフォーをちゃんと画面で確認できたので満足です。特に尾野さんの松沢は、最終話で倉田理事官(遠藤憲一さん)と向き合う場面のあのツラダマシイに成長変貌する前の、出発点はここにあったのか…と感慨さえ覚えるほど。1話での住本の台詞にあったように、かわいいけど「男の目を惹かず、かと言って不細工過ぎず目立たない」、地味で、いい意味で田舎っぽい尾野さんの持ち味がこんなに活きる役柄もそうはないと思う。派手な目鼻立ちの、記号的美人さん女優では絶対に成立しない役です。尾野さんの出演作は今後も注目ですな。
何より第1話、テロを含む犯罪違法行為とは無縁だったはずの、まじめな技術者社長・谷村(田口トモロヲさん)をからませることで、“無辜の一般善良市民がテロの魔手に取り込まれる恐怖”、ひいては“巨テロ阻止という大義のためなら市民をツールにするのも平気な、外事の峻烈さ”をきちんと描出した。
自分には責任のない爆発事故から自社の主力製品があらぬ疑いをかけられ、せっかく脱サラ起業して軌道に乗りかけていた事業が低迷、倒産の危機に。二度めの不渡りを出す寸前に、テロ組織と内通した某国外交官が大枚の金銭と、何より谷村が誇りとする技術力を誉めそやす甘言をもって誘惑します。
一度は断った谷村でしたが、救いの神だったはずのベンチャー融資が理不尽に打ち切られるに及んで、ついに禁断の木の実に食指が伸び……。
「いま止めて危険を知らせれば、谷村は犯罪に手を染めずにすむ、別居を余儀なくされている妻も、事故以来いじめに遭って引きこもりになっている息子も、犯罪者の家族にならずに済む」と焦る陽菜、若い女子相手にガチ組み合って介入を止める住本は「谷村が自殺したらそれも仕方がない、ラモン(←FISHと通じる某国スパイ)が次のターゲットを定めるのを待つ」と言い放ちます。
谷村がラモンに禁断の取引場所を指定、苦しんできた負債を一気返済して釣りの来る5,000万円の現金を手にしたら、別居の妻子と久々に外食をと連絡します。受け渡し現場に向かう途中の谷村を追尾する松沢の、いまにも「あの…行かないで」と話しかけたげな表情をモニターして「おいおいおいおい」とひやひやする住本班金沢(北見敏之さん、過去最高の当たり役!)。松沢の願い虚しく谷村は外為法違反の現行犯で“外事表(おもて)”の手で待ち伏せ逮捕、つゆ知らぬ妻子が楽しみに待つレストランの前をパトカー連行されてしまいます。
しかも谷村をいっとき天国に祭り上げたベンチャー金融は、五十嵐(片岡礼子さん)の調査でも素性が判らないはず、実は住本の雇ったダミー。「一度天国を垣間見た人間は、地獄の恐怖がもはや耐えられなくなる」…これを松沢に知らしめない語り口がいいのです。ここで陽菜ちゃんが住本の方法論をそこまで知ってしまったら、2話以降の下村愛子(石田ゆり子さん)取り込みの話が成立しなくなる。
標的のためなら人間であることをやめるさえ辞さない住本と、そんな“公安が生んだ魔物”とチームを組んでいるとはいまだ知らない松沢。努力型の優等生新人女子と、“モンスター”とのコンビは、なにやらクラリス・スターリング捜査官とハンニバル・レクター博士を連想させます。
1話の土台がしっかりあったから2話以降が活きた。最終話ラストシーンの住本も、“みずからの峻烈なやり口に復讐された”と取るもよし、逆に“このシーンが‘さらなる裏の裏’への一丁目”とも取れる。
いまや“草食系男子”の時代ですが、渡部篤郎さんの、“実は肉食の隠花植物”みたいな、一見へなへな、ほにょほにょした、軟体な佇まいが実に役柄にマッチ。輪郭の明晰な、きりっパリッとしたルックスの人、動物的な温もりや熱気のある人では住本は演れない。
全話視聴して、依然、芸風的に苦手なタイプの役者さんであることに鐚一文変わりはないのですが、力のあるドラマ、小説であれ映画であれ力のあるフィクションは「苦手だけどおもしろい、わくわくする、見逃せない」と思わせてくれるものなのです。
NHK土曜ドラマは、こういう、一種引き攣った娯楽感に満ちた作品を、最近よく放送してくれます。民放他局のドラマがCM不況のためか軒並み小粒になり、冒険しなくなっている現状、NHKには“TVドラマ製作局最後の牙城”として期待したいですね。
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