市川海老蔵さん、飲むと「人を怒らせる天才」なんて評もあるようですが、いろんな媒体がいろんな噂話昔話、蒸し返してほじくり返してプレゼンするごとに思うのは、「伝統芸能御曹司として、死に急いでるだけじゃないか」。
同じ芸能人、スターと言っても、ポッと出のアイドルやイケメン俳優といった、水のように流れる浮気な世間的ブーム次第の人気商売ではなく、何をやっても汚れても、“腐っても鯛”で一生安泰が約束されている出自です。背いても背いても反故にされない、反故にすることが許されない約束。生まれた瞬間から、死ぬまで雁字搦めに締結されている、身分保証という名の拘束。
ウソか本当か、脚色何パーセントかわかりませんが、「オレは人間国宝になる男」「60歳まで国から2億円もらえる」発言は、普通に直球なオレ様天狗ビッグマウス、あるいは単純なそこらの酒癖悪ゴロツキ兄ちゃん(33歳だけど)というより、“がんじがらめ特権出自から、泥まみれ失墜したい”願望のあらわれな気もします。
単純に酒好き、飲んでホラ吹いてバカ騒ぎが好きなだけなら、あの世界の人たちにはちゃんと親子何代もの“御用達の店たち”があるし、ムチャやってもなだめたりいさめたり取りなしてくれたりする取り巻きも、二重三重にいるのだと思う。でも海老蔵さんは、“御曹司さまチヤホヤ”という、親代々馴染みのお手盛りワールドの中では、ハメはずした気がしないし、楽しめないのでしょう。だから、人間国宝とか年俸ウン億円とか、庶民と四つに相撲とる必要なんかはなから無い御曹司らしからぬ、誰だってムカッパラ立てるに決まっているオレ様暴言も出る。これはホラではなく、「どんなもんだい」の鼻高々でもなく、たぶん彼なりの、苦くイタく屈折した、しかしいささか幼稚な自虐なのでしょう。
どっちに余分に非があるにせよ、怪我して手術までした人に酷な言い方だけど、この人は顔面崩壊して歌舞伎役者生命失ったほうが幸せだった。隈取りが描けないボコボコの顔にされて、見得も切れずニラミも二度とできなくなり、自分の才能、才覚、根性っきりで勝負するしかない境遇に放逐されたとき、初めてこの人は自虐から自由になって、生来の個性を発揮できるのではないでしょうか。
持ちたかったら自分で戦って奪い取るしかない、大多数の“持たざる者”からは普通に羨まれるだろうけれど、先祖代々の持てるものを、持てるままに受け継ぐのは、ラクなようでいて、持てる血筋に生まれてきた人なら誰でも、黙っててもできるというものではないのです。
徒手空拳で戦い、おのれ以外に味方のいない状況で、ゴツゴツガツガツぶつかりながら生きて行くほうが合っている、傍から見て「しんどそうだなあ」「安らぐ暇がないなあ」と思える試練の荒野でこそ輝ける星回りの人もいる。そしてそういう人が、たまに“持てる者”ばかりの世界に、ポコッと生まれてくることもある。
「ホラ、水が合わないだろ、安閑過ぎて息苦しいだろ」という、それは神様が、試練の似合う人のために愛をこめて与えた、最初の試練のプレゼントかもしれない。
だから月河は、一連の報道を小耳にはさむたび、「もっと嫌ってやれよ、叩いてやれよ、干してやれよ」と思うのです。
…いや、人として、とりあえず大事に至らず怪我が全治したらいいなとも思いますけどね。顔のケガって、殴られたんじゃなくても、痛いし、景気よく血が出るしね。
犯罪として立件されるまではいかなくても、全般に、“(特に男性の)酒による醜態、迷惑行為”に、世の中甘いしユルいような気がしますね。
しかも、社会的地位のある人、有名知名人だととりわけ「ストレスたまるんだろう」なんて無用に優しい斟酌つけてあげたりなんかして。
こういう甘さが、最近の薬物事犯の蔓延につながっているのかもしれませんね。
飲む自分も、周りの人も、飲む前より楽しく、幸せになれる飲み方じゃないとね。お酒に失礼ってもんですよね(…っていつの間にか、自分に言ってるな)。