最近はここでその話しかしないくらい、濃密視聴は継続中なものの、『カーネーション』熱は昨年暮れ辺りに比べると個人的に若干冷め気味です。
“ヒロインの恋愛”で急降下してしまう凡百の朝ドラのたどる道は免れ、糸子(尾野真千子さん)らしい、糸子にしかできない恋の選び方→盛り上げ方→戦い方→決着のつけ方で、さすが違いのわかる朝ドラ!とうならせてくれたのですが、やはり子供世代のお話になってしまいますとね。
“個性開花し始めた子供たちに振り回され気を揉まされながら、自分なりのやり方で応援し幸福を願う母親”像に、糸ちゃんも過不足なくはまってしまって、ずっと“異能で異色の人”“先鞭の人”だった彼女の、衝突っぷり摩擦っぷり、道のこじ開けっぷりをこそ痛快がり、楽しんできた身としては非常に物足りない。最近では長女・優子(新山千春さん)や次女・直子(川崎亜沙美さん)に比べて、糸子が画面に映っている時間も、台詞自体も減り勾配です。
どうなんでしょう、「子を持つ親となったら、自分の願望充足より子の幸せ第一であるべし」という無意識の前提が、制作する側にも視聴する側にも頑強にあるから、どうしてもそう作り、そう見えてしまうのかもしれない。“母”という属性は、ドラマでも小説でも、女性人物において最強ですからね。どんな異能の、ユニークなヒロインでも、子持ちであれば子供中心に回るほうが“見やすい”ということはある。
流さないでちゃんと観察していると、3人姉妹それぞれに、糸子のDNAや、幼時の接し方の影響の片鱗が、違う角度から言動の端々にあらわれている点など、糸子子持ち篇だからこそ味わえる興趣が、あるにはあります。善作お祖父ちゃん(小林薫さん)にベタ可愛がりされた長女の優子は、進路を決めるにもどこか甘ったれで“褒められチヤホヤされていないと腰が上がらない”ところがあるし、いちばんのゴンタ娘ゆえにいちばん糸子らが手を焼き、頭を悩ませ構いもした次女の直子は、母の気性をいちばん濃く受け継ぐだけでなく、その母親の関心や評価に敏感で、なおかつ“突出していてこそ私”という意識も強い。父親の顔もお祖父ちゃんの顔も知らず、姉ふたりの張り合いにも我関せずな末っ子・聡子(村崎真彩さん)は、いっそ千代お祖母ちゃん(麻生祐未さん)のほうに近いスローライフ自然体っぷり。
決しておもしろくなくなったわけではないけれど、でもやはり子供たちの話にはあまり興味が湧かないのです。母娘物語も、きょうだい物語も要らない。やってくれて迷惑なこともないけれど、そんなに嬉しくも楽しくもない。『カーネーション』で見たいのはそういうものではない。
月河がずっと見ていたいのは小原糸子という人物なので、小原糸子でなければできないデザインのアイディアや商法、営業法、時代と人との出会いと、出会いがもたらす転変の話をこそ見たいのです。
そんなわけで、昨秋以降はほとんど『カーネーション』以外何も見ていなかったTVも、年明けから他の番組にちょこちょこ手を広げてみることにしようと。
まずは何をさておきと、新作大河ドラマ『平清盛』(1月8日~)をいってみましたが、これは2話で早くも下車。ご当地の知事が画面の暗さ汚さにクレームつけたという話題のほうが、ドラマ本編より大きく取り上げられてしまいましたが、画面どうこうより、ストーリーなのかキャラ作りなのか、とにかくどうにも掴まれないし引き込まれないのです。源平ものには月河世代より親しい高齢組がまったくそっぽを向いてしまいましたし、もうたぶん、終了するまでチャンネルを合わせることはないでしょう。
タイトルロールの平清盛(松山ケンイチさん)がヴィジュアルも人間性もいまひとつキレを欠きカッコよくないせいもあるだろうし、脇も含め人物全般トゲトゲ、イジイジ、ギスギスしていて物語世界の空気が息苦しい感もある。出てくると楽しくなる、可愛げのある、あるいは爽快さのあるキャラが見当たらないのです。
月河は日曜には必ず朝のスーパーヒーロータイムを欠かさないので、同じ曜日の夜のゴールデンタイムは“国営放送が大人のために作るSHT”に徹すればいいのではないかといつも思うのです。国営放送が作るから、正統派。大人のためだから、豪華予算にホンも充実、キャストも芸達者、旬のスター揃い。1話見終わってスカッとし、次はどんな敵が来襲するのだろう、どうやって、どんな技で撃破するのだろうと家族で話に花が咲く。歴史素材なら、大づかみな起承転結はすでに出来上がってそこにあるのですから、あとは解釈と脚色と肉付けです。むずかしいことは要らないのに、どうして敢えて“あんまりカッコよくなく”作るのでしょうかね。カッコよくすると安くなるとでも思っているのかしら。
源平構図ではどちらかというと“絢爛たる巨悪”的なポジションの平清盛。スーパーヒーロータイムでも昼帯ドラマでも、強くてクールな敵役・派手でケレン味たっぷりな憎まれ役にまずは目が行く月河は、清盛をヒーローポジションに置くドラマならいけそう!とかなり期待したのですが、初っ端から大きな外れを引いてしまった2012年でした。