そのカワウを初めて見たのは5月初旬でした。
だらりと力なく垂れ下がった片翼
よたよたした足取りで池の端を歩いていました。
「間もなく落鳥するのでは…」と予感させる痛々しい姿でした。
きゃ~!気味が悪い!と悲鳴を上げる女性たちの声が冷たく響きます。
人を寄せ付けない異様な雰囲気に、私も成す術もなくその場を去りました。
次にこのカワウに会ったのは夏 7月の下旬でした。
健康なカワウは羽ばたきながら水面を助走して飛び立ちます。
しかし、一羽だけ水面を走るばかりで飛び立てないカワウがいたのです。
すぐに、春に見たあの片翼の折れたカワウの姿が浮かびました。
仲間のカワウが難なく離水していく中で、そのカワウだけが繰り返し水面を走り続けます。
幸い潜水能力に問題はなく、池を泳ぎ回っている間は他のカワウと見分けがつきません。
飛べないながらも、公園の池の魚を捕食して、生きながらえているようでした。
秋が来て冬を迎えても、カワウは元気に生き延びていました。
羽の色艶もよく コバルトグリーンの目は生き生きと輝くようでした。
あれこれ思い出しながら、しばらくカワウの様子を見守っていると、
一羽のアオサギが飛んできてカワウのかたわらに降り立ちました。
羽の色や模様から春に生まれた幼鳥と思われます。
この池の周りの巨木の林はアオサギとカワウのコロニーになります。
同じ頃に孵化した他のアオサギたちの大半は、池を離れて新天地を求めて飛び立っています。
その中で、冬まで居残っているこの幼いアオサギにも何らかの事情があるのかもしれません。
アオサギとカワウ お互い見つめあったり語り合ったりすることはありませんが
こうして近くにいることで なんとなく安心感があるようでした。
カワウの表情も心なしか明るく穏やかに見えました。
この時季、公園の池は越冬するカモたちやユリカモメたちでにぎわいます。
例年通りなら間もなく、アオサギたちが営巣の場所取りを始めます。
飛ぶことはできないカワウですが、公園の池なら一人ぼっちになることはありません。
日向ぼっこをしたり、美味しい魚を食べたりして、一日一日を穏やかに生き延びていってほしいです。
カワウ(河鵜、川鵜)Great Cormorant 全長約80㎝
カツオドリ目ウ科ウ属
参考:カワウの保護管理 ぽーたるサイト
http://www.biodic.go.jp/kawau/00_kawauseitai.html
最後まで見ていただきありがとうございました。