
刻まれ波のように繰り返されるギターのリズムは、その音楽に乗って身を任せていると、まさに行っては返す波に揺られる小舟よろしく心地よい。

しかしながら、この歌の歌詞をかみしめれば、およそ健康的なランニングには向かないのは明らかである。

この歌の冒頭の歌詞はこんな風だ。
体は重くて 心は軽くて 命の重さは どれくらいだろうね
海があふれて 陸地が消えて 地球 次第に 熱くなってるね
ああ人間たちよ 元気でいるかい
そうさ芸術家 今だ科学者 そして宗教家 何とかなるか
作詞は北山修。そう、この歌は現代の人間にとっての危機的状況を憂えているのである。あらゆる知識人、文化人、政治家などがその知を結集して、さてそれでも「何とかなるか?」と投げかけている。
彼らフォークルのメンバーは絶望と希望の境界線上でいわばギリギリ踏みとどまっていた、もしくは踏みとどまろうとしていた。そして加藤和彦はついに絶望のほうへ足を踏み出してしまったのかもしれない。
この曲の最後にはパトカーか何かのサイレンさえ録音されている。


にもかかわらず、走りながら聴いていてその歌詞が引っかかってしまった以上、この曲はやはりここに選ぶべきだという気がした。
わたしが走っているのはただ健康のためだけではないからかもしれない。大げさに言うなら、走ることは自分が今この瞬間に生きてあることを--さまざまな人間的しがらみから離れて、より自由に、だからこそよりはっきりと--確認し続けていることでもあるという気がする。
ただ速く走るためでも(速いに越したことはないけど)、気持ちよく走れればいいわけでも(気持ちよく走ることは快感だけど)、ない。もっと何かある。

というわけで「とにかく楽しく走れたらいいし、面倒なことは考えたくない」という人にはこの曲は向きません。
わたしだって、この曲ばかりリピートして聴きながら走りたいとは思わない。ただこういう歌を聴きながら走る時間があってもいいんじゃないかとは思うけれど。

アルフィの坂崎幸之助が加わって再結成されたザ・フォーク・クルセダーズの2002年のアルバム「戦争と平和」に収録されています。
芸術家、科学者、そして宗教家 ザ・フォーク・クルセダーズ