Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

戦死者・被爆者が浮かばれない

2013-08-17 | Weblog
故・中沢啓治氏が自らの被爆体験を基に描いた漫画「はだしのゲン」について、「描写が過激だ」として松江市教育委員会が昨年12月、市内の全小中学校に教師の許可なく自由に閲覧できない閉架措置を求め、児童生徒への貸し出し禁止も要請していた。全校が応じ、現在、「はだしのゲン」全10巻を保有している市内の小中学校49校のうち39校全てで、閉架措置が取られている。古川副教育長は「平和教育として非常に重要な教材。教員の指導で読んだり授業で使うのは問題ないが、過激なシーンを判断の付かない小中学生が自由に持ち出して見るのは不適切と判断した」と言う。教育委員会は「漫画の中に、人の首を切る場面や女性が乱暴される場面など、一部に小中学生には過激な描写がある」「平和への願いなど、作品に込められた趣旨は高く評価しており、教員が指導して平和学習の教材として使うことには問題はないが、過激な描写が含まれており、子どもが自由に読むことについては疑問がある」としている。原爆被害を伝える作品として教育現場で広く活用され、海外でも約20カ国語に翻訳されている作品が、なぜ、まさに作者が読ませようとした子どもたちから、遠ざけられなければならないのか。松江市では昨年8月、市民の一部から「間違った歴史認識を植え付ける」として学校図書室から撤去を求める陳情が市議会に出されていた。同12月、不採択とされたが市教委が内容を改めて確認、その月の校長会で「はだしのゲン」を閉架措置とし、できるだけ貸し出さないよう口頭で求めていた。「陳情」とは何か。私は、真に「愛国心」のある者なら、国民が苦難に耐えて生きようとする姿を描く「はだしのゲン」を支持するのが当然だと思うが、「はだしのゲン」をネット上で「嘘出鱈目反日極左マンガ」「30年以上にわたり日本人に自虐史観を植え付けた」と決めつけた偏った思想の持ち主が、原爆被害の過去を風化させ、戦争や原爆の記憶を継承させないように図り、教育者たちがそれに屈したのだ。なんと情けないことか。「はだしのゲン」について「ありもしない日本軍の蛮行が描かれており、子どもたちに間違った歴史認識を植え付ける」という「陳情」もあったという。日本軍の蛮行、戦争の悲惨さは、事実である。それを子どもにもわかりやすく描いた漫画だ。侵略と暴虐の歴史を改竄し、被曝被害を隠蔽して原発を推進したい政府に媚びを売り、国家主義者たちに都合のよいように史実を捏造してはならない。今回の経緯を知るにつれ、これは被爆者への新たな差別であると思った。こんな横暴を許しては、多大な苦しみを背負った戦争の被害者たちが浮かばれない。
私は観ていないが、TBSが作成した特集番組「沖縄戦 4割がトラウマ」の中で、宮里洋子さんが取材を受けた場面で、テロップは「集団自決」だったにもかかわらず、音声は「一家心中」になっていたという。沖縄戦の「集団自決」を「一家心中」と言い換える意図とは何か。ここにも隠蔽と差別がある。戦争・軍隊に追い詰められた者たちが、選ばざるを得なかった死を、「一家心中」とごまかし、国家・軍隊の責任をなかったことにしようとするような捏造を、断じて許してはならない。
広島と長崎に投下された原爆について、イスラエル政府の高官が、「日本による侵略行為の報いだ。独り善がりの追悼式典はうんざりだ」「広島と長崎での原爆投下は、日本が侵略行為の報いを受けただけだ。日本が追悼すべきは帝国主義や大量虐殺で犠牲となった中国人や韓国人だ」などとインターネット上に書き込んでいたという。この高官は停職処分になっているというが、こうした発言が出てきているのは、侵略の事実や戦争被害への責任を認めずにいる日本政府の歴史認識と態度にこそ、原因がある。
「好戦的・軍国的な愛国心」がこの国を一度絶望的な被害と頽廃に追いやった歴史を、忘れてはならない。

明るい話題は楽天の田中将大投手が連勝をプロ野球新記録の21に伸ばしたことくらいか。楽天初優勝も間近だろう。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする