時差ぼけに悩みつつ、午前中はファディル・ジャフ氏のワークショップに途中からつきあう。前日の私の講座を見て、受講者たちの集中力が長時間の座学に向いていないといちはやく見抜いたか、ファデルは一時間半ほどでフィジカルワークに突入。ロシア式対面型メソッドの面白さ。……私も今日は更に山の上に登ったところの吹き抜けのオープンステージで、やはりフィジカルワークショップ。俳優兼任の者もいるものの、受講者は基本的に演出志望者たちで身体派ではないから、まあ、やりやすい形にしてゆく。身体を動かしながら昨日の理論を裏付けていくので、当然説得力がある。後半は私もかなり動いてみせる。引っ込み思案だったり悩みやすかったりした一部の受講生とも皆コミュニケーションがとれて、やりやすくなる。明日への課題も出す。……その後、もともと仲良し同志だったというイタリア各地を中心としたアーティストたちが今年になって再集合したというチームが私たちラ・ママ関係者に見せたいとして、『アンティゴネ』独創版野外劇を、なんと「出前」で見せに来る。野外、日の長い当地で午後八時半過ぎから夕暮れの借景で上演。9月に完全野外劇を上演する予定の身としては、いろいろ刺激的であった。そのメンバーたちも交えて、夕食。食後は音楽劇カンパニーであるゲストの彼らによるミニコンサートが続き、おそろしく贅沢である。中にイランから来ている女優がいて、終演後の挨拶の最中にそのことに触れ、涙ぐんでいた。この感覚は島国日本だとなかなかないものだ。一緒に飯を食べている時は彼女も元気を取り戻していたが、そこで交わし合った演劇人どうしの相互の信頼に対するある種の感覚も、日本には乏しいものだ。日本では我が儘や自分本位が許されすぎていて、自分の狭い視野で相手を裁断して思考停止する人達が多いし、殊に被害者意識の過剰に強い者のほとんどは自我を成長させることを止めそれに自覚がないということも関係しているだろう。……ミネアポリスで自分の劇団を二十年つづけているという受講生ウェンディが、〈指輪ホテル〉の羊屋白玉と合作「Mesujika 雌鹿 DOE」を作っているトリスタ・ボールドウィンの知り合いとわかり、また盛り上がる。……その羊屋を「世界が注目する日本女性100人」に選んだことのある米週刊誌ニューズウィークが、完全ネット化される見込みという。紙媒体はもちろん一般書籍も今後の運命は厳しい。「新聞はもう十年余、ネットでしか読まない」という友人は、アメリカに先に多かった。こういう変化にビビッドだったはずの日本が鈍感な昨今である。全面ネット化した方がいいとは思わないが、この「遅れ」じたいに今はマイナスの意味がある。……韓国では釜山郊外の古里原発1号機で2月に起きた全電源喪失事故が1カ月以上隠蔽された事件で、隠蔽を主導し原子力安全法違反の罪で在宅起訴された当時の運用責任者に懲役1年の実刑判決が下る。原発関係者のモラルの低さがしっかりと糾弾されている。振り返って日本を見ると恥ずかしいばかりだ。……そして日本人の昨年の平均寿命は女性85・90歳、男性79・44歳で、女性の平均寿命は一昨年まで26年連続世界一だったが、香港の86・7歳を下回り2位となった。日本人男性も4位から8位に順位を下げた。厚労省は「多数が死亡した東日本大震災が大きく影響している」「10万人当たりの自殺者数が特に20代で高まった」等と説明している。……なんだかいろんなことがあるが、とにかく今を生きる。……燐光群チームは仙台の<せんだい演劇工房 10-BOX >に入っていて、十二時間後には幕が開く。「屋根裏」「『放埒の人』はなぜ『花嫁の指輪』に 改題されたか あるいはなぜ私は引っ越しのさい沢野ひとしの本を見失ったか」に続く、三回目の10-BOXでの上演。仙台の皆さま、どうぞお楽しみに。(写真は<せんだい演劇工房 10-BOX >地図)
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